■掲載年月日 2002年04月01日
■シルバー川柳 恋あり・病あり
■17文字に託した第二の人生
■「夫より 三歩前行く 老後かな」
−−恋あり、病あり・合コンあり…
サラリーマン受難のリストラ時代にも、お年寄りたちはパワフルだ。社団法人全国有料老人ホーム協会(東京都中央区)が公募した「シルバー川柳」には、「サラリーマン川柳」とは一味違う、第二の人生をおう歌する姿が透けて見える。恋あり、病気あり、化粧あり、合コンあり。17文字に託された、今時のお年寄りの思いとは――。
■夫婦愛の行方
同協会の設立20周年記念事業でもある「シルバー川柳」には、10〜94歳から3375句の応募があった。平均年齢は男性62・2歳、女性56・7歳。60、70代のお年寄り自身が暮らしの悲喜こもごもをつづったものが多い。
中でも目立つのが「恋」の歌。やはり永遠のテーマである。
人恋し恋とは違う人恋し(75歳女性)
恋は恋でも「人恋しさ」を詠む人もいれば、まさに「恋」を詠む人もいる。
逝く日まで恋をする気の紅を買う (61歳女性)
初恋の想いに似たり恋ができ (60歳女性)
女性がこう歌えば、男性も負けていない。
口づけも入歯ガクガク老いの恋 (79歳男性)
牌を積む夫婦未満が居る至福 (79歳男性)
亡き妻に許されし恋古稀おどる (60歳男性)
どれもトキメキに弾んでいる。恋はやはり、若返りの秘けつなのだ。では「夫婦愛」の方はどうだろう。まずは夫の側の作品を見てみよう。
残るのも先に逝くのもいやと言う (77歳男性)
老妻の初恋話妬いてやる (63歳男性)
妻への感謝や静かな愛情のこもった作品が多い。しかし、中にはこんな作品も。
夫婦してアルツハイマー探り合う (61歳男性)
次の世も一緒と言えば妻はNO (67歳男性)
では、肝心の妻たちの本音はどうか。
赤い糸夫居ぬ間にそっと切る (52歳女性)
三回忌頃から光る未亡人 (70歳女性)
「赤い糸」を切られていやしないか、男性陣をドキリとさせる作品である。
川柳担当の見市拓(みいちひらく)老人ホーム館長によると、「三回忌頃から光る」はかなり控えめな表現だそうだ。「ご主人を亡くされた直後に、いきなり生き生きと活発になる女性も少なくありません。妻に先立たれた男性のほとんどがなかなか立ち直れないのと対照的です」
有料老人ホームでは、女性入居者が多い。女性の方が長寿だからだ。男女比が「2対8」というホームも珍しくない。つまり、圧倒的な男性の「売り手市場」なのだ。しかし、男性なら誰でももてるか、というとそうでもない。
見市さんによると「お年を召された女性ほど、男性を見る目も肥えている。もてる男性は多くの女性からもてる。もてない人は……」。ちなみに、もてる男性像は「身だしなみがきちんとしていて見目うるわしい人。まめな人。それから余生を一緒に過ごす相手として楽しい人、というのも大切な要素」だそうだ。
一方、好まれる女性のタイプは「男性をたててくれる、慎み深い人」。しかし、川柳を見る限り、おとなしく男性の後を付いていく女性ばかりではない。
夫より三歩前行く老後かな (59歳女性)
合コンだ入歯みがいて紅さして (60歳女性)
「お若いわ」その一言でお得意さん(81歳女性)
女房の行事で詰まるカレンダー (72歳女性)
老妻がホームで宣言主婦卒業 (72歳女性)
応募作品に透けて見えるのは、お化粧を楽しみ、仲間と集って巣鴨に出かけ、さらには「合コン」にまで出かけて行く女性たちの力強さだ。では、男性は?
定年後妻の歩幅になる散歩 (70歳男性)
ここもまた女上位で平和かな (72歳男性)
女性に押され気味と言うべきか。それとも、あえて女性に上位を譲る「男の包容力」と言うべきか。
■昔カラオケ、今パソコン
新しい高齢者像を探った00年版「厚生白書」は、高齢者の余暇の過ごし方がかつての「ゲートボール、温泉、カラオケ」の三種の神器から大きく変わりつつあると指摘する。60歳以上の男女が今後やってみたいと希望するのは順に「海外旅行」「国内観光旅行」「水泳」「パソコン」だ。実際、今回のシルバー川柳でも、ダンスやパソコンを歌った作品が多かった。
古希近しまさかまさかのキーボード(66歳男性)
出会い系年齢制限ありますか (33歳女性)
メル友と絶対会えない自称十代 (35歳男性)
孫とメール交換する喜びを歌った作品も多かった。「シルバー川柳」に欠かせないお題の一つが「孫」である。
今日もまた孫と取り合う車椅子 (72歳男性)
ホームでは孫の来る日は薄化粧 (64歳女性)
生きがいは爺より孫と婆は言い (64歳男性)
もちろん、こんな川柳もまた、現実である。
孫達が来て年金日思い出し (79歳男性)
■老いを笑う
病気や病院も、お年寄りには格好の川柳ネタだ。
昔酒、今は病院はしごする (59歳女性)
売るほどの病を持って長生きし (58歳女性)
昼寝して「夜眠れぬ」と医者に言い(57歳男性)
主治医には内緒鍼灸まむし酒 (63歳男性)
「老い」と向かい合ったしみじみとした作品もあった。
躓(つまず)いてあんな小石と振り返り (60歳男性)
一方、「ぼけ」や「老い」を笑ったユーモアたっぷりの作品も。
すらすらと嘘が言えますボケてない(78歳男性)
ボケとらん!世間がワシらと時差ボケじゃ(41歳男性)
ボケテヤルこの一言で黙る息子達 (64歳女性)
損得で高齢を出したり隠したり (73歳男性)
「都合の悪い話だけ聞こえないふりをする」と川柳の中で告白した応募者のいかに多いことか!
さて、こんな「元気印」のお年寄りたちは、今のニッポンをどう見ているか。
低金利医療費税金いじめの国 (73歳男性)
公的と言いながら私費増大し (61歳男性)
サラリーマン受難の今は、お年寄りにとっても決してラクな時代ではないのである。
◇女性優位を感じますね−−俳優・小沢昭一さん(72)
川柳は「笑い」と「うがち」と言いますが、私はもう一つ、「えぐり」を大事にしています。いわば毒のある目。自虐でも他虐でも、「虐」の激しいのがおもしろい。この点で、近ごろはシルバー川柳に女性優位を感じますね。
女性の川柳の方が冷えている。老いをあっさり受けとめ、ぐさっと踏み込んでくる。男性の方が老いに虚勢を張ったりして、逡巡(しゅんじゅん)があるようです。
五つ特選を選ぶなら「夫婦してアルツハイマー探り合う」「女房の行事で詰まるカレンダー」「定年後妻の歩幅になる散歩」「三回忌頃から光る未亡人」「夫より三歩前行く老後かな」でしょうか。全部夫婦の句です。恋の句よりおもしろい。恋の句は読み手がどうも甘くなって「毒」が足りない。その点、夫婦にはもう「うっとり」はないからね。ほとほと飽きたが偕老(かいろう)同穴、という心境で、虐がある。
定年後、夫婦一緒に川柳を始めても、女房の方がおもしろいのを作る。男は仕事と巨人戦ばかりの暮らしだったから、家でテレビを見てきた女房に情報量でかなわない。私自身も含め、「おじいさんは今とっても悲しいのよ」とつくづく思います。しかし、女性が元気なのは、男として心強いね。安心して死ねる。私もお迎えが近い年だから、しみじみそう感じますよ。