Mon, September 07, 2009

Cartier   トリニティリング  第7話

テーマ:My Love Story
亮介。

あのあと車の中でメチャクチャ説教たれてたね。

「心配させやがって馬鹿野郎!」「もしものことがあったらどーすんだ!オマエは女だぞ?取り返しのつかないことに
なる場合だってあるんだぞ!」「気が強いのにも程度ってモンがあるんだ!」
etc・・・・


うるさいやい。たった16歳の私はあんな風にしか生きられなかったんだ。


安堵感と訳のわからない感情で泣きじゃくる私に、あのときのあなたはどんな思いでいたんだろうね。

頭を撫でてくれたぎこちない手は、今でも私の心の奥にしまってあるよ。




あの事件のあと、健太には会っていない。

あのあと遊び仲間とつるむ気分になれなかった私は、真面目に自分の将来なんか考え始め、とりあえず勉強でもするかとけっこう家に居る時間が多くなったのだが、友人から健太も姿を見せていないことを聞いた。

そしてこれもずっと後からわかったことなのだが、亮介は、あのあと健太に話しをつけにいき、紗英子と話をさせたらしい。
あのときの亮介のハッタリにさすがのチンピラたちもビビッたんかな~なんて、のんきな私は考えていたけれど、
心配性な亮介は裏でも私を守ってくれていた。



紗英子にも会うことはなかった。

あれほど怖い目にあったのに、私はなぜか紗英子を憎む気になれなかった。

好きな男の子供を堕ろし、幾日も経たずに別れを余儀なくされた彼女は、どれほど傷つき、悲しみ、苦しんだことだろう。
かといって紗英子のしようとしていた卑劣な行為を私は許したわけではない。
ただ、そんな風にしか表すことのできなかった紗英子の悔しさが、あまりにも悲しすぎて今思い出してもせつない。
亮介に手を引かれて一瞬振り返って見えた紗英子は、赤い傘の中で泣いているように見えた。




私はこの事件のことを今まで誰にも話したことはない。

こうしてブログに書く気になったのは今年の冬に偶然、紗英子を見かけたからだ。

2歳くらいの小さな男の子の手を引き、すっかりママの顔になっていた彼女は、とても優しい満ち足りた顔をしていた。



亮介。

あのときのあなたが、紗英子と私、そしてチンピラたちを救ってくれたのだと思う。

あなたからもらったこのトリニティリングはいつだって私を勇気づけるよ。

そして、大好きなあなたと別れなければならなかった理由を

勇気を出して、つぎから書いていきたいと思う。





Mon, September 07, 2009

Cartier   トリニティリング  第6話

テーマ:My Love Story
時は止まったかのように辺りは静寂につつまれる。

聞こえるのはドキドキと早鐘のごとく打ち鳴らす私の心臓の音だけだ。

握りしめた拳はもちろん震えていたし、今にも崩れ落ちそうな膝をかろうじて支えていたのは、

「私は絶対にウソはついていない」という真実だけだった。



「で、どうするよ?紗英子?」

「・・・・・・・・」

「やるんなら早いとこ、やっちゃう?さっきからたばこキレちゃってるしね~」





「たばこならここにあるけど?」

「・・・・・・亮介・・・・!?」

「なんだてめぇは!?」

「はあ?目上の者に口の利き方しらねえバカにはもったいなくてやれねえな、やっぱあげるのはよそうw」

「誰だテメエは関係ねえだろ、ひっこんでろ!」

「てめえらこそなんだぁ?ガキがナマ言ってると痛い目に遭うよ?」

「はあああ?」

「はあああ?じゃねえよ、最近のガキは脅すボキャも貧困だねえw」

「てめぇふざけんじゃねえぞボケ」

「ボケはそっちだ大馬鹿野郎が」

「なんだとぉ!?」

「wwwwwったく、ガキが・・・・・こんなとこに女の子呼び出して何しようと思ったわけ?」

「うるせんだよてめえの知ったことかボケ!」

「返答によっちゃ、ただじゃおかないよ?」

「うるせえって言ってんだろが!」

「いいか、よく聞け。卑怯な手口で善悪のわかんねえ事してるとな、今にうまいたばこも吸えなくなるし、
かわいい女の子ともデートできなくなるってことだ。」

「はあ?説教ってか!?」

「説教?冗談じゃねえよ、だれがテメエらみたいなマヌケ野郎どもに説教なんかするもんか、もったいない。
俺が言ってんのはね、脅しだよ、脅しwwwあんまりふざけたマネしてると怖い目に遭うよ?
鑑別や年少送りになった方がまだマシって世界・・・・・ww」


「ふざけたこと言いやがって!」

「信じないのは勝手だけどな、リミにこれ以上手を出してみろ、タダじゃおかねえからな・・・・どこへ逃げたって必ず見つけ出してテメエらの人生メチャクチャにしてやっからな、忘れんなよ。」

「・・・・・・・・」

「それから、そこのお嬢ちゃん。アンタのことはかわいそうだと思うけど、テメエの男への恨みをリミにぶつけんのは
間違いってやつだよ。こいつは口は悪いがウソつくようなやつじゃない。」


「・・・・・・・」

「いいか、ガキどもは俺の言ったこと、よく覚えておけよ。ホレ、帰るぞリミ。」







私の手をとり足早に歩く亮介の背中は、なぜか怒っているように見えた。

訳がわからずその広い背中を見ていたら、涙で視界がにじんでいた。
Fri, August 28, 2009

Cartier  トリニティリング  第5話

テーマ:My Love Story
あの日のように今日も雨が降る。
こんな夜は少しだけあなたのことを思い出してみる。

幼い頃でさえどんなにいじめられても泣かなかった私が、誰かの前で泣くなんて・・・・。
いつまでたっても泣き止まない私に、あなたは途方にくれてたね。
ぎこちなく優しく頭を撫でてくれるあの大きな手はとても温かかったけど、本当は抱きしめてほしかったんだよ。




「あれ、本当に一人で来たんだ。度胸あんだね、威勢がいいのは口だけかと思ってたよ」

「はあ?あんたがサシで話したいって言ったんだろ。で、なんだよ用件は」

「・・・・・健太のことに決まってるじゃん。ウソばっかり言いやがって」

「はあ?ウソなんか言ってないよ。あいつとは付き合ってないって何度も言ってるじゃないか」

「じゃあなんでバイクの後ろ乗ってんだよ!」

「・・・・そのくらいで彼女呼ばわりされたらたまんないね、どこか出かけるときは誰かのケツに乗せてもらうよ。
健太だけじゃないよ。他のヤツにも乗せてもらうことあるし」


「でも健太は女はホレた女しか乗せないっていつも言ってるよ!」

「知らないね、そんなことは。とにかく健太とはダチっていうことだけで何でもないよ。
だいいちあんたもう別れたんじゃないの?そうやっていつまでも追いかけ回すと余計に嫌われるよ」


「アンタのせいで別れたんだよ!あんたがチョロチョロ顔出さなきゃ、別れずに済んだんだよ!」

「だから関係ないって言ってんだろ!ホントに健太とは何でもないんだよ!」

「健太はアンタと付き合ってるって言いふらしてるよ。アンタは有名だからね。得意になって言いふらしてるよ」

「はあああ?健太の野郎、そんなこと言ってんの?」

「とぼけてんじゃねえよ、いいかげんにしろよ、まあアンタが私に謝ればいいよ。それで許してやってもいいんだけどね」

「なんで私が謝らなきゃならないわけ?自分がフラレた腹いせに私を恨むのはスジ違いってやつじゃね?」



「謝れって言ってんだから、謝ったほうがいいんじゃね?リミちゃんとやらw」

「誰だ、テメエは」

「見ての通り、紗英子の友達ってやつwww」

「サシで話すんじゃなかったのかよ!」

「もう話は終わったんじゃないの~?とりあえず謝っとけば?怖い思いさせたくないしw」

「・・・・・・・テメエらふざけやがって!」

「そんな怖い顔すんなよw素直に謝れば、別になんにもしないよリミちゃん。」

「そうそう、オレたち別に君に恨みはないしね」

「・・・・・・・紗英子。こんな所に呼び出したのは、これが理由か・・・・?」

「そうだよ!のこのこ一人でくるなんてバカすぎるよね!」

「・・・・・そんなに私のコトが憎いのか」

「・・・・・ああ、憎らしいよ。私はね、先月健太の子供堕ろしてるんだよ。
それなのにね、あんたが現れちゃってね。
アンタさえいなければ、健太と別れずに済んだのに・・・・・!何にも知らないくせに健太と付き合いやがって!ふざけんじゃねえよこの野郎!」






健太という男のために苦しんでいる彼女の目は私への憎悪でギラついている。
彼女の憎しみの強さに、背筋が氷つく。
目の前でニヤついている2人の男たち。
逃げなければと思っているのに、身体が動かない。










Wed, August 12, 2009

Cartier  トリニティリング  第4話

テーマ:My Love Story
過ぎていく夏の終わりを感じられないまま、季節は秋に変わる。
勉強と友人たちとのお遊びに夢中になって過ごしていたあの頃。
屈託のないあの人の笑顔を見ると、なぜか私は無性に腹が立ち悪たればかりついたのに、
ったくオマエはしょうがねえなあと私の頭をクシャクシャと撫でてくれたね。
あの大きくて優しかった手はほんの少したばこの香りがして、時に私の頬をつねったりした。



「リーチ一発平和ドラ3だ、ほれほれ、また勝った~ハッハー♪」

「ったくまた俺にあたりやがって・・・ったく平和から跳満もってくなよお」

「へへっ裏ドラの女王と呼ばれた里美さんをなめんなよ~うきき」

「ああ、ちきしょう、よし!もう半チャン勝負だ!」

「あ、わりいね、私ぬけるから、用あんだよね、ちょっと」

「なんだよ勝ち逃げかよ、ずりいいいいいい」

「どうした?どこか行くんか?」

「ん・・・・まあね、ちょっとね」

「雨降ってるぞ?送ってってやろうか?」

「ったくなんだよ、オマエまで逃げるんかよお」

「どっちみちリミがいなけりゃメンツ足らねえし」

「あ、姉ちゃんもうすぐ帰って来るって言ってたぞ」

「え、ホント?じゃあ待ってよっかなっ~」





「へえ・・・イイ車乗ってんだね、あんたの?」

「まさか、オヤジのだよ。さて、どこへ送って行けばいい?」

「ああ、うん・・・・○×公園の向こうにある城跡知ってる?」

「知ってるけど・・・・そんなとこ行って何すんの?雨降ってんのに」

「うん、まあ、ちょっと」

「ちょっとって何だよ」

「何でもねえよ、たいしたことねえよ」

「お?たいしたことねえのなら言ってみろよ」

「うるせえなあ、呼び出されたんだよ、S校の女に」

「はあ?呼び出されたってオマエ・・・・何悪いことしてんだよ」

「何もしてねえよ、あっちが誤解してんだよ。男をとられたって言いやがって・・・・」

「は?」

「最近みんなで遊んでる仲間の一人なんだよ。私と撮ったプリクラをあちこち貼り付けてる
らしく、それで誤解されちゃってるだけ。」

「そんな程度で呼び出しするんか?」

「何回か会ったことあんだよ。校門の前で待ち伏せされたりしてね。そのたびに説明してんのに分からず屋の女でさ、私がとったとカンチガイしてるんだよ」

「・・・・で、男は何だと言ってるんだ?」

「別れた女だから気にすんなってさ・・・・別にどうだっていいけど、女が何度も電話してきてさ、会って話しがしたいってうるせえんだよ。だからこれから話つけにいく」

「話つけるって、それやばくないのか?」

「別に話するだけだよ、やばくはない。あ、ここでいいよ、あんがとね」

「なあ・・・・・俺も一緒に行こうか?」

「へっ?いいよ。大丈夫だよ。話するだけだから。じゃあね、ばいばーい」


そうして私は小雨の降る中、車から降りた。

自分の考えの甘さを思い知るために。


Thu, July 30, 2009

Cartier   トリニティリング   第3話

テーマ:My Love Story
あの日も蒸し暑かった。
雨上がりの午後は、日差しの強さと辺りに立ち込む熱気のせいで、
しばし私の意識を遠のかせ、時に思考回路を停止させる。


「お、リミ、母屋から包丁借りてきてくれ、直也がスイカ持ってきたんだ。冷えてるうち食おうぜ~」

「スイカ?おーおーいいねえ、待ってて、今持ってくる♪」




「あ、この間の期末、英語95点だったぞ」

「お~すげえじゃないか!やっぱり教え方がいいんだなあ~」

「ちげえよ、私がかしこいんだ。やはりデキがイイ♪」

「wwww・・・・・で、その5点マイナスは何なん?」

「ああ、ありゃあ、簡単なミスだ、私は見直ししないからな」

「見直しくらいせい!まあ、なんでもいいけど、英語だけは勉強しとけよ。語学ができるとな、仕事にも生かせるが、なんていっても視野が広がるんだ、世の中いろんな人間がいるからな」

「わかってるよ、説教すんなじじい」

「なあ、美樹はいないんか?」

「姉ちゃん?さっき出てったよ」

「なんでだよお、美樹がスイカ食いたいっていったから、重たいのにわざわざ持ってきたのによお」

「なに、おまえ、美樹に惚れてんの?無理無理~」

「やっぱり彼氏には勝てんかのお、あううう美樹ちゃあああん」

「姉ちゃん、モテルからな」

「ええええ?俺じゃあ攻略できん?」

「おまえじゃ、無理無理。いいからちょっと、早くバラセよ!せっかく冷えてんのに暖まっちまうじゃねえか」

「・・・ったく口が悪いなあ、美樹とは大違い」

「姉ちゃんと比べんなボケ」

「まあいい、おまえはなまじっかかわいい顔してるから、言い寄る男はいっぱいいるだろう。
 おまえの口の悪さとプライドの高さは、外見だけに惑わされる男の防御になる。
 普通の男はそんなおまえに太刀打ちできず逃げ出すのがオチだ。
 それでもおまえのことを想ってくれるヤツが本物だ。いつかそんな男がきっと現れる」


「・・・・・・」

「でもな、強気なのはいいが、ホレた男の前だけでは、カワイイ女でいろよ。いくらホレタ女でも、ボケだのクソだの言われたら、男はへこむからな」

「・・・・・ふーん・・・」

「あれ?なんか顔、赤いけど、何テレてんの?」

「うるせー暑いんじゃい!さっさと食え!ぶつぶつ説教ばかりしやがって! 暑苦しいんじゃあ!もっと切れ、はやく!」

「ううう、美樹のためにせっかく買ってきたのに~」

「wwwwwww」




・・・・・・・。


どうやら私は、この説教男が好きなのかもしれない。


 
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