ホーム転落の全盲ボーカル、盲導犬と感謝のライブ2009/09/12配信
視覚障害者らでつくるロックバンドを率い、何でも独りで挑戦してきた全盲の男性が、駅ホームからの転落事故を機に、盲導犬とともに歩むことを決意した。15歳で光を失って以来「暗闇の中でがむしゃらに前進してきた」が、事故で周囲の支えを実感。7月から盲導犬との生活を始めた男性は「盲導犬と一緒にステージに立ち、周りの人たちへの感謝の気持ちを伝えたい」と意気込んでいる。
15歳で失明した熊野さんは失望と将来への不安の中、音楽に救いを求めた。盲学校の仲間と1980年にシャンテを結成。手話で歌詞を伝える女性ボーカルも加わり、全国各地で年数十回のコンサートを開くまでに。「できることは必ずある。一歩踏みだそう」との思いをロックの旋律に乗せ、多くの障害者や健常者を励ましてきた。 音楽活動以外でも、独りで海外旅行するなど様々な可能性に挑戦。「盲導犬に頼らなくても十分生活できる」と思ってきた。そうした中で遭った使い慣れた最寄り駅での転落事故。「積み上げてきた自信が揺らいだ」熊野さんは、「街を怖々歩くようになった自分は、前に進んでいるのか」と考え込んだという。 ただ、挫折は自身や周囲を見つめ直す機会にもなった。転落を駅員に知らせた乗客や、ホームの非常ボタンを押した人たちへの感謝は「自分は弱く、支えられている」との思いにつながり、安全のため盲導犬のユーザーとなることを決心した。 6月、東京都練馬区の盲導犬訓練所「アイメイト協会」でラブラドールレトリバーの盲導犬「マキア」(2)と出会った。研修のため4週間、泊まり込みで一緒に生活。「訓練中、厳しくしからなければならないのがつらかったが、その分、信頼を重ねられた」 これまで約500曲を作曲してきた熊野さん。転落事故から盲導犬との出会いまでの出来事は新たな創作意欲につながり、初めて周囲への感謝の気持ちを歌った新曲「ありがとう」が完成した。 これからはライブでもマキアが一緒。27日にも大阪府茨木市の市民イベントに参加する予定で、「勇気に加え、支えてくれる周囲への感謝も伝えたい」。“2人”で新たなメッセージを発信していくつもりだ。
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