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社説

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八ツ場ダム―新政権の力量を見せよ

 前原誠司国土交通相が、政権公約通り、群馬県の八ツ場(やんば)ダムと熊本県の川辺川ダムの建設中止を明言した。

 たとえ巨額を投じた事業であろうと、建設の意義が揺らいでいるのなら見直す必要がある。動き出したら止まらないと思われてきた公共事業にブレーキをかける大胆な試みだ。

 鳩山政権は大型公共工事の全面的見直しを掲げている。地元からも建設中止の声が上がっている川辺川ダムと違い、中止への抵抗が強い八ツ場ダムはその最初の正念場になろう。地元と十分に話し合い、今後のモデルになるような結果を残してほしい。

 八ツ場ダム構想は、1947年のカスリーン台風で利根川が決壊したことから生まれた。そこへ60年代、急増する水需要対策が重なった。だが、歴史のある温泉街をはじめ340戸が水没するため、地元の説得に手間取った。用地買収がなお遅れている場所があり、6年後の完成も危ぶまれている。

 地盤が弱く、JRの線路や国道の移設も必要で、事業費は膨れあがった。昨年完成した岐阜県の徳山ダムの6分の1の大きさなのに、事業費は1.4倍の4600億円。地元対策に1300億円の別予算も組まれている。

 この半世紀の間に、水をめぐる状況は大きく変わった。首都圏でも水需要はバブル崩壊後、減少の傾向だ。

 一方で地球温暖化による大渇水、大洪水の懸念は拡大している。財政難のなか、自然に負担をかけず効率のよい対策に知恵を絞らなければいけない。

 渇水時には、水量の多い農業用水や工業用水から生活用水を融通できないか。洪水対策なら堤防改修の方が即効性があり、やり方次第で安上がりだ。

 とはいえ建設中止は大変なことだ。

 関連事業分を含め、300戸以上が立ち退いた。ダム観光に期待してきた人も多い。ダムを前提に将来設計をしていた人たちの暮らしをどうするか。

 事業費の一部を負担する6都県は「このまま造った方が得だ」と主張している。中止するなら負担金返還を求める構え。造りかけの道路や橋は完成させるのか。都や県に対する負担金差し止めの訴えは東京地裁などが次々に退けた。すでに約3千億円を投じた事業だ。中止のハードルは非常に高い。

 前原氏は今週末からの連休中にも地元を訪問する予定だ。ダムに頼らない地域振興策と住民の生活再建策をじっくりと練ってほしい。巨額の補償も覚悟しなければいけないかもしれない。

 八ツ場ダムなどの建設中止は、全国で約140の計画中や建設中のダムにも影響を及ぼすだろう。

 しかし、問題はダムに、さらには公共事業だけにとどまらない。政権が代わったことを国民が実感できるか。矢継ぎ早に新政策を繰り出す鳩山政権の力量が試されている。

気候変動サミット―世界動かす環境外交を

 鳩山由紀夫首相が、本格的な環境外交に乗り出す。

 国連事務総長の呼びかけで22日にニューヨークで開かれる気候変動ハイレベル会合(気候変動サミット)だ。バラク・オバマ米大統領をはじめ各国首脳らが顔をそろえる。最大の懸案は、京都議定書に続く、地球温暖化防止のための国際枠組みづくりである。

 この枠組みは、12月にデンマークで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で合意することになっている。だが、残り3カ月になったいまも各国の思惑や事情が交錯し、合意を危ぶむ声さえ出始めている。

 各国首脳は12月に合意するという強い決意を示して、交渉打開の糸口を探る必要がある。

 鳩山氏は先日、本社主催の地球環境フォーラムで「温室効果ガスを2020年に90年比で25%削減する」と表明した。これを国際社会は好意的に受け止めており、かつてないほど日本の発言に耳を傾ける状況にある。新政権が積極的な外交を進めるにあたって、またとない好機だ。

 自民党政権の環境外交は「腰が引けている」と批判されることが多かった。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の設立に後ろ向きだったことや、米欧が検討を進めている国際炭素市場づくりで蚊帳の外に置かれていることを見ても、日本の消極性は否定しようがない。

 政権交代を機に環境外交のギアをチェンジさせたい。求められるのは、「欧州と協力して米国と中国を説得する」くらいの気構えだ。そもそも鳩山氏の「25%削減」は、すべての主要国が意欲的な目標に合意することが前提だとしている。そのための外交努力を強めなくてはならない。

 たとえば、途上国に資金援助や技術協力で低炭素型の成長を促す一方、そういう支援の実績を先進国の排出削減に織り込む。そんな次期枠組みの青写真をできるだけ早くまとめ、国際交渉の場で提案していくことだ。

 さまざまな支援で新興国や途上国の脱温暖化を後押しする「鳩山イニシアチブ」を呼び水に、中国やインドなどとの妥協点を探る。そんなしたたかな交渉戦略も求められよう。

 こうした積極的な環境外交は、日本にとってもさまざまな利点がある。

 新興国や途上国への資金や技術の支援を先進国の削減にどう織り込むかは、日本の排出削減率に影響する。そういう支援を日本企業の商機にするためにも、次期枠組みの設計をルールづくりの段階から主導した方がいい。

 気候変動サミットの後、日米首脳会談やG20金融サミットなどの外交日程が続く。次期枠組みは低炭素型の経済を世界に広げる端緒なのだ、という視点も忘れないでほしい。

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