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きょうの社説 2009年9月18日
◎北陸の基準地価 都心部の2ケタ下落に衝撃
北陸3県の都道府県地価(基準地価)の大幅な下落は、底を打ったとされる景気が腰折
れし、2番底に向かう懸念を想起させる。なかでも石川県は、全用途平均の下落率が6・7%と全国平均の4・4%よりはるかに悪く、特に金沢のど真ん中の広坂1丁目で11・8%もの下落を示したのが目を引く。石川県や富山県は、これまで「新幹線効果」で、都心部や駅前の地価の落ち込みをくい 止めてきた。2014年度末の金沢開業へ向けた都市基盤整備に最優先で取り組み、都心部や駅前の地価上昇を周辺地域に広げていく戦略は、うまくいくように見えていただけに、金沢市中心部や小松市の工業地での2ケタ下落の衝撃は大きい。 地価下落の原因は明らかである。昨年秋以降の世界同時不況で、不動産市況が予想以上 に冷え込んだ。特に都心部や駅前の土地を積極的に買ってきたファンドや投資家の動きが完全に止まったのは痛かった。基準地価の下落が全国的に避けられない情勢のなかで、石川県や富山県は、新幹線効果のプレミアムがはげ落ちた分、反動も大きかったのだろう。 日銀金沢支店は先日、「北陸の景気は、依然として厳しい状況にあるが、下げ止まって いる」として、基調判断を据え置いた。日銀が、「景気は持ち直しに転じつつある」との見方を示し、基調判断を上方修正するなかでの据え置きである。北陸経済をけん引する製造業の生産が幾分持ち直しているものの、業績の回復は遅れがちで、先行きの見通しに自信が持てるまでには至っていない。景況感が改善しない限り、新規の土地需要は望めず、地価の低迷は当分続く可能性がある。 懸念されるのは、北陸の景気を下支えしてきた北陸新幹線関連工事などの発注が止まる ことだ。これによって金沢開業の時期が遅れるようなことがあれば、北陸の景気は持たないかもしれない。鳩山政権は、麻生政権が成立させた追加経済対策の予算を削り、マニフェスト(政権公約)の関連予算に回そうとしているが、予算の執行停止が地方経済の体力をそぎ落としかねない現実を直視すべきだ。
◎天野IAEA局長 日本ならではの役割を
国際原子力機関(IAEA)の年次総会が開かれ、次期事務局長に天野之弥氏を任命す
ることを正式に承認した。北朝鮮やイランの核拡散問題が深刻化する一方、「原子力ルネサンス」とも言われるように、地球温暖化防止と増大するエネルギー需要に対応するため、原子力発電を積極的に利用する機運が国際的に高まっており、IAEAの責任は一段と重みを増している。唯一の被爆国である日本は原子力の平和利用に徹し、民生分野で高い技術力を有しているが、現実の国際政治の場では北朝鮮の核兵器の脅威に直接さらされている。この日本の経験と立場を生かして、IAEAの役割をしっかり果たすよう天野氏に望みたい。IAEAをめぐる状況は、まさに国際政治の縮図である。北朝鮮やイランの核拡散防止 に関して、核大国の米国、ロシアそして中国の足並みは必ずしもそろわず、互いにけん制し合っている。一方、原子力の平和利用のあり方をめぐる問題は「南北問題」であり、核先進国と途上国が摩擦を繰り返すという状況である。 今回のIAEA事務局長選挙で優勢とされた天野氏は1度落選し、再度の選挙でようや く選出された。天野氏が苦戦したのは、日本の外交力の弱さだけでなく、米国と同盟関係にあるため、IAEAの運営が米国寄りになるのではないかという疑心が中ロや途上国にあったからとされる。 現実の安全保障政策として、日本は米国の「核の傘」に頼っている。しかし、核軍縮・ 廃絶の呼びかけで国際社会をリードしてきたのも事実であり、核大国と途上国の間に立ち、原子力の平和利用と軍事転用の防止というIAEAの理念と目的を、より説得力をもって国際社会に広げることができるはずである。そのために、天野氏が調整力や政治的指導力を発揮することも求められる。 日本は米国とともにIAEAの財政を支える柱である。しかし、約2300人のIAE A職員のうち、日本人はわずか40人前後という。天野氏を支える邦人スタッフの強化も必要であろう。
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