「郵政民営化では、いろいろご心配をおかけしています」
郵政民営化法案をめぐり、衆議院が揺れた6月下旬、古本伸一郎前衆院議員(40)は、東京・水道橋のトヨタ東京本社に奥田会長を訪ねた。応接室で、こう頭を下げる民主党の1年生議員を、奥田会長は「君も立場があるから大変だろう」などとねぎらったという。
古本氏は休職扱いだが、れっきとしたトヨタの現役社員。03年の総選挙で、トヨタのおひざ元、愛知11区(豊田市など)から出馬。トヨタ系労組の手厚い支持もあり、全国最多の18万余票を得て、初当選した。
年数回は「上司」にあたるトヨタ幹部との意見交換をするが、その時は自ら議員バッジを外す。「党の立場にとらわれず、課長クラスの社員のひとりとして、率直な指摘を受けるため」だ。
奥田氏は郵政民営化推進の立場だが、衆院郵政特別委員会で法案に反対の論陣を張った古本氏は「社会保障や税財政の分野で改革が必要との立場は、経営側とも共通だ」と言い切る。
トヨタが国会に送り込んでいる社員は2人。古本氏と、トヨタ労連出身で民主党の直嶋正行参院議員で、60歳の定年までは社員として面倒をみるのが習わしだ。休職中は給与は出ないが、退職金算出のもとになる在職期間に算入される。トヨタ幹部は「労使協調路線のもと、会社としても間接的に民主党議員を支援する構図だ」と説明する。
愛知11区を古本氏に譲った伊藤英成・元衆院議員(63)は「トヨタグループ労使双方のため全力でやってきた」と振り返る。6期20年務め、民主党副代表やNC(次の内閣)外相を歴任したが、61歳と「定年」直後の前回総選挙であっさり引退。その後、トヨタから、グループ企業のトヨタ車体監査役として処遇されている。