亀井「徳政令」に銀行猛反発 本当に導入できるのか

2009/9/17      twitterでつぶやく このエントリーを含むはてなブックマーク はてなRSSに追加 この記事をBuzzurlにブックマークする この記事をクリップ! Yahoo!ブックマークに登録 newsing it!   コメント(6)   印刷

   鳩山内閣の金融相に就任した、国民新党の亀井静香代表が打ち出した中小企業向け貸し出しや個人向け住宅ローンの「返済猶予制度(モラトリアム)」の導入に、銀行界は激しく反発している。「個別企業との契約内容を法律で止めようなど無理だし、考えられない」というのだ。また、中小企業取引の多くが体力の弱い地方銀行など中小金融機関に集中しているため、不安も広がっている。一方、銀行の経営健全化を推し進めてきた金融庁も困惑気味で、実現までには紆余曲折がありそうだ。

「借り手が元気になれば、返済能力が出てくる」

   民主・社民・国民の連立3党の政策合意では、「貸し渋り・貸しはがし防止法」(仮称)を成立させる、としていた。亀井金融相が意欲を燃やす「返済猶予制度」はその一環とみられ、中小企業向け貸し出しや個人向け住宅ローンの返済を銀行などに猶予するよう促す仕組み。景気悪化で、売上げが伸びない中小企業や、リストラ解雇や給与カットなどでローンの返済に困っている人の資金繰りを助ける狙いがある。

   亀井金融相は「可及的すみやかに実施したい」とし、金融庁と早く検討に入りたい考え。詳細は不明だが、返済の猶予期間は3年程度。金利分だけ支払えば元本返済を猶予してくれるのだから、借り手にとって大きなメリットになる。

   「借り手が元気になれば、返済能力が出てくる」と、金融相はモラトリアムの有効性を強調する。

   一方、実現すれば、銀行の収益悪化が懸念される。銀行が自主的に融資の可否を判断できなくなると、不良債権が膨らむ恐れがあるからだ。借り手の企業が経営改善努力を怠る、「モラルハザードが起こりかねない」(大手地銀の幹部)との指摘もある。

個別契約を「法律の力で止める」のは考えられない

   あるメガバンクの関係者は、「きわめて情緒的というか、浪花節。中小企業に限らず、これまでも業績悪化で貸出条件を見直すことなど、どの銀行もやってきていること。そもそも、個別企業との契約内容を法律で止めようなど無理だし、考えられない」とあきれる。

   「モラトリアムはひとつのアイデアで、貸し渋り、貸しはがし対策をきちんと打てば解決する話ではないのか。まさか民主党もモラトリアムが導入できるとは思っていないだろう」(大手地銀の幹部)と、高をくくる声もある。

   「いま、一番困惑しているのは金融庁でしょう」というのは、ある信用金庫の役員。金融庁はバブル崩壊後のこれまで、銀行に不良債権処理を積極的に促し、財務内容のよくない企業をマーケットから「退場」させてきた。「金利分だけの返済でよければ、生き残っていた企業は五万とあった」(前出の役員)という。

   そこまでして、銀行の経営健全化を推し進めてきたわけで、「モラトリアム」となると時間をひと昔前に戻すことになる。「自己資本の強化など、国際的に銀行経営の健全性が問われているときに、逆行する政策を採るのだから大変だ」(大手地銀の幹部)と同情する。

   制度設計にも難題が山積している。返済を猶予してもらえる対象者の範囲や、金利負担を軽減したい(返済したい)人の扱い、返済猶予によって企業は「格付け」が下がるなど、他の資金調達手段にも影響が出てくる。財務の透明性が確保できなくなり、情報開示が曖昧、煩雑になって、上場企業であれば投資家の株式への評価も下がる心配もある。

   なんとか制度導入に漕ぎ着けても、銀行は新規融資に今よりさらに審査を厳格化して、貸出金利は上昇。結果的に貸し渋りも増えるかもしれない。融資分の返済猶予を要望されたら、銀行側から債権放棄を進める場合も増える。そうなると追加融資はなくなり、「かえって倒産が増えるのではないか」(地銀関係者)と推測する。

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