さほど大きく報道されなかったが、8月末に起きたソフトバンクモバイルの「メール誤配」は、「通信」という言葉の定義を揺るがすほど深刻な“事件”だと思う。同社のメールサーバーに不具合が生じ、4000通近いメールが違う相手に届いたり、差出人とは違う名前で届いたというのだ。
いまや携帯メールはビジネスでも一般的な連絡手段だ。ユーザーは「通信」という言葉の中にある「信」の字を文字通り“信”じて利用している。それが間違った相手に届いたというのだから、通信会社の屋台骨を揺るがすような出来事だと思う。ちなみにNTTドコモやKDDIには過去にもこうした不具合はないという。当然だ。
ソフトバンクは誤配による通信料は発生しないとしているが、コトは金の問題ではない。ビジネスのメールがライバル社に届く、不倫相手へのメールが妻に届く…いや、それは極端だとしても、気を許して書いたメールが見知らぬ相手に読まれることの不気味さは計り知れない。間違って受け取った相手が善人とはかぎらないからだ。
【大手町のフジ編集局では「圏外」】
同社はMNP開始以来、契約純増数1位の座をほぼ独占している。その理由が980円の低額&定額プランと例の白い犬のCMの人気にあるのは周知の通り。CMについてはSMAPまで起用する力の入れようだが、その力をもっと通信の“中身”にも注いでほしいというのがソフトバンクの1ユーザーでもある記者の願いだ。
身近な話をしよう。夕刊フジ編集局は日本を代表するビジネス街、東京・大手町のど真ん中にある。ところが、この編集局の中でソフトバンクの携帯だけは、ほぼ「圏外」だ。ビル内は電波が届きにくいものだが、ドコモやauのユーザーは悠々と電話しているのだから、明らかに異常だ。
「圏外」では仕事にならないので、記者をはじめとする社内のソフトバンクユーザーたちは数カ月前から電波状況を改善する要望を同社サイト経由で出している。だが、改善される気配はまったくない。山の中の一軒家ならともかく、ビジネス街で働く複数の人たちが要望しても電波が届かないということは他所の状況も推して知るべしだろう。
そんなわけで記者は、上戸彩やSMAPが登場する華やかなCMを毎日複雑な気持ちでながめている。その気持ちをさらに複雑にさせたのが、この夏、皆既日食で日本中の注目を集めたトカラ列島にドコモが携帯の基地局を設置しているというCMだった。トカラで通じるドコモと、大手町で通じないソフトバンク。「通信」に対する姿勢の違いが今回の「誤配事件」の遠因…とまでは思いたくないが。