今年1~7月に自殺した人は約1万9800人(警察庁調べ)で、過去最悪だった2003年の年間3万4千人に匹敵するペースで増えている。11年連続での3万人超えは異常だ。10日から始まった自殺予防週間は、きょうで終わるが、いっそう危機感を強めねばならない。
24時間体制で電話による悩み相談に応じる「岡山いのちの電話協会」に昨年寄せられた相談は、自殺をほのめかす内容が1037件と前年の1・3倍に増加した。「景気、雇用悪化の中で生活の困窮や不安を訴える人が目立った」と同協会は説明している。
国は06年に自殺対策基本法を制定。翌年には自殺総合対策大綱を策定し、国を挙げて自殺防止に取り組んできた。にもかかわらず一向に改善の兆しが見えない。自殺対策が不十分というしかあるまい。
世界保健機関(WHO)は自殺について「その多くが防ぐことのできる社会的な問題」と指摘している。自殺は個人の問題ととらえられてきたが、実際はさまざまな社会的要因が絡み合って心理的に追い込まれ死を選んだことが分かってきた。適切な治療やサポートを行うことで自殺を防ぐことができる。
警察庁の調べでは、昨年の自殺者の動機の中で最も多かったのがうつ病などの健康問題。次いで経済的な負債、家族問題などが挙がっている。うつ病などの心の病には、早期発見と治療が欠かせない。自殺の背景にアルコール依存症を抱えた中高年が多いことも指摘されている。
精神保健だけではなく、社会的な取り組みも重要である。ローンを抱えた多重債務者、会社の支払いができなくなった経営者には、弁護士による法的支援や悩みを聞く心のケア体制も必要だ。失業などで生活不安を抱える人は多い。雇用保険や生活保護などのセーフティーネット(安全網)充実も欠かせない。
自殺を図った人が精神科医などの専門家に相談したケースは実際は少ない。家族や職場の同僚が、自殺のサインに気付いて予防に結びつけることが重要になる。家族が病気について学べる啓発活動を進めたい。企業ではメンタルヘルスも充実させねばならないだろう。
地域のボランティアと自治体が相談や啓発活動に取り組むことで効果を上げた秋田県などの実例もある。悩みを抱えた人たちを孤立させないため関係機関や団体のネットワークも大切だ。自殺防止の努力を地道に積み重ねていきたい。