2008年10月23日(木) |
来年二月十二日は英国の生物学者ダーウィンの生誕二百年。進化論を説いた「種の起源」発表からも同十一月で百五十年を迎える。この節目を前に「神が(人類の祖)アダムとイブをつくった」とする聖書と矛盾するとして、かつて進化論を否定した英国国教会がダーウィンに謝罪、波紋を広げている。 「ダーウィンよ。生誕二百年を迎える今、国教会はあなたに謝罪する義務がある。最初の対応を(進化論の否定で)誤ったことで、今も多くの人々を誤解させている」 国教会の伝道・大衆問題局長マルコム・ブラウン主教は、こんな言葉で結んだ「良き宗教は良き科学が必要」と題する文章を今年九月、国教会の公式サイトで発表。国教会は「主教の個人的見解」とする一方、一部メディアに対しては、主教の見解は教会の立場を反映していると述べた。 国教会は現在、自然淘汰(とうた)による進化論は「キリスト教と矛盾しない」との立場を採るが、進化論が発表された十九世紀はこれを危険視。当時は自由思想の高まりなどで絶対だった教会の地位が揺らぎ「神経質な時代だった」(同主教)ためだ。 英国民の間でも、進化論受け入れ派が今では多数を占める。二〇〇六年の調査では、48%が進化論を支持し、人類は神により創造されたとの説は22%が支持。人類誕生は進化論だけでは説明できず、人知を超えた高度な力が働いたとする「インテリジェント・デザイン(ID)」への支持は17%だった。 国教会の百五十年ぶりの謝罪を受け、ダーウィンの子孫で科学者のアンドルー・ダーウィン氏は「当惑している」と英紙にコメントした。 一方、英国同様、プロテスタントが多数派の米国では、事情は大きく異なる。聖書を字義通り受け入れるエバンジェリカル(福音派)などキリスト教右派の影響力が強く、米国での〇七年調査では、進化論支持は13%にすぎず、45%が創造説。ブッシュ大統領や共和党の副大統領候補、ペイリン・アラスカ州知事らが、学校は「進化論とは別の見方も教えるべきだ」と主張したこともある。 カトリック界では一九九六年、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ二世が進化論を肯定する見解を示した。しかしANSA通信によると、現法王ベネディクト十六世は〇六年の演説で「(森羅万象はダーウィンによれば)進化の偶然の成り行きによるものだとされるが、非現実的だ」と表明。法王庁高官は、ダーウィンへの謝罪はしないと明言した。 法王庁は来年三月、科学者や神学者をバチカンに集めて進化論をめぐる会議を開催する予定で、「聖書と進化論」の議論が再び盛り上がりそうだ。(ロンドン共同=小熊宏尚) |