西海市西彼町の大村湾沿いにひっそりたたずむ洋風建築群、旧長崎オランダ村。閉鎖から4年を経て、市は西彼総合支所を移転させるための施設改修費約1億5000万円を9月定例市議会に提案した。跡地再生へ向けた初の予算だが、支所以外の活用策はなお具体性を欠く。市民の間にも早期再開への期待と、全体像が不透明なままでの公金投入への懸念が交錯する中、議会の予算審議は週明けにヤマ場を迎える。
■変わり果てた姿
「うわ、白アリのひどか。窓枠もボロボロぞ」
今月1日、旧オランダ村内部を視察した市議団はあまりの惨状に目をむいた。ボロボロに朽ちた木製の窓枠。床に飛び散った大量の白アリの羽。観光客が闊歩(かっぽ)したウッドデッキからは腐敗した板の悪臭が漂う。1980年代末から90年代初めにかけて、年間約200万人が訪れた九州屈指のテーマパークの変わり果てた姿がそこにあった。
旧オランダ村は83年に開業。92年、佐世保市にハウステンボスが開業した後は徐々に業績が悪化し、2001年に閉鎖した。土地と建物は旧西彼町(現西海市)が約1億9000万円で取得し、05年3月に民間企業によって食のテーマパークとして再出発したが、半年余りで経営破綻(はたん)。以来、手つかずの状態で放置され、市が負担する維持費は年約800万円に上る。
■市長交代で転換
山下純一郎前市長は土地と建物の売却方針を決め、利用業者の公募も始めていたが、今年4月に初当選した田中隆一市長は6月、「民間活力を採り入れながら公共的な活用を模索する」として、売却方針を撤回。来年5月の再開目標を掲げた。
念頭にあったのが、今年5月に耐震性の低さが判明した西彼総合支所の移転だ。市は全体を3地区に分けた跡地活用プランを立案。シンボルだった風車などがある国道沿いのA地区に支所を移転。船着き場だったB地区には図書館などの公共施設や民間商業施設を入れ、対岸のC地区には民間の福祉施設を誘致する方針を打ち出した。
今回の予算案では、A地区の建物3棟を改修する。市によると、支所が入居予定の部分に限ると費用は5500万円程度で済み、現地立て替えや補強より安上がりという。しかし、建物の構造上、全体の改修が必要で経費がかさむ上、支所以外のスペースは一部を県の出先機関の事務所やホールとするほかは、活用法が決まっていない。
A地区以外についても市のプランは具体性を欠き、最終的にどれだけの市費が投入されるかも示していない。担当の「さいかい力創造室」は「見切り発車と言われても仕方ないが、支所の耐震化は急務。とにかく走りだすことでオランダ村に人の流れをつくりたい」としている。
■「市は道筋示せ」
「行き当たりばったりなら、また失敗する」
前市長時代に跡地利用を希望した事業所は、引き続き市側と折衝を続ける考えを示しながらも「市はどういうコンセプトで再生を進めるのか、市民にきちんと説明すべきだ」と指摘する。
8-11日の市議会一般質問では、18人中11人が旧オランダ村について質問。「全体のイメージが分からない」「本当に民間は入るのか」など市のプランの実現性を疑問視する声が相次いだ。
田中市長は「極力、市の一般財源を使わなくてすむかたちを選択していく。市民が納得いくかたちで進めていく」と理解を求めたが、ある市議は「賛成、反対が拮抗(きっこう)し、態度未定も多い。可決されるかどうかまったく読めない」という。
注目の予算審議は14日。風車は再び回るのだろうか。
=2009/09/13付 西日本新聞朝刊=