きょうの社説 2009年9月16日

◎「モンスター」対策 PTAの行動宣言も広げたい
 教師や学校に無理難題を要求する「モンスターペアレント」対策として、石川県教委が 「学校問題解決支援チーム」を設置するのは、学校だけでは対応困難な事例が増えていることの表れだろう。学校で生じた問題は学校で解決するのが基本としても、聞く耳を持たない執拗な要求であれば、対応を専門家に委ねるなど組織的に対応するのが望ましい。

 県教委はクレームの実態調査や事例研究など本格的な対策に乗り出す構えだが、学校現 場を守る教委の後方支援策とともに重要なのはPTA側の取り組みである。

 金沢市高岡中PTAは昨年、「非モンスター宣言」とも言うべきPTA憲章を制定し、 今年はかほく市の宇ノ気校区PTA合同会議でも同様の行動宣言をつくった。「学校のルールは保護者が責任を持って守らせる」「基本的なしつけは家庭で行う」など保護者の役割を明文化したもので、これらは当たり前のように思えて、なかなか実践できないことでもある。

 保護者が学校側に理不尽な要求を突きつける背景には、親としての役割意識の低下が指 摘されている。学校と家庭は役割が異なっても、子どもの教育に関して本来は協力すべき関係にある。行動宣言などを通して「子どもを一緒に育てる」という意識をPTAに広げていくことは、学校と保護者の信頼関係を築くことにもなろう。

 親の非常識な言動には学校の実情をよく知らなかったり、子どもの情報を鵜呑みにした 思いこみや誤解もあるかもしれない。高岡中や宇ノ気校区PTAの憲章、宣言で「参観日・学校行事に積極的に参加する」「親は学校の状態、子どもの様子を知る義務がある」などと学校側とのコミュニケーション強化を打ち出したのも大事な視点である。

 苦情といっても、あくまで保護者の立場での言い分なのか、保護者の名を借りた「クレ ーマー」なのか見極めも重要である。県教委が調査に乗り出すからには、苦情内容などを分析し、その背景を徹底的に分析してほしい。なかには学校や教師に原因が潜むケースもあるだろう。「モンスター」調査は、学校と保護者の関係を見つめ直す、またとない機会でもある。

◎新閣僚が内定 円滑な政権移行を第一に
 鳩山政権の発足に向け、新閣僚の顔ぶれがほぼ固まった。政策決定を内閣の下に一元化 し、「官僚主導」の統治システムを「政治主導」に変えていく第一歩である。新閣僚の下、各省に副大臣、政務官など約100人の国会議員を送り込むことになるが、政権運営の柱となる国家戦略局は、肝心の権限や組織のかたちが見えず、前途多難を予感させる。

 これまでの政治の仕組みや税金の使い道を大きく変えようというのだから、最初からと んとん拍子で進むはずがない。結果を出そうとして焦り過ぎず、まずは円滑な政権移行を第一に考えてほしい。世界同時不況の傷が癒えぬなか、即座に対応を迫られる問題や不測の事態がいつ起きるか分からない。国政の停滞を招かぬ配慮が求められる。

 民主党を中心とする新政権が発足すれば、公約を反映させた2010年度予算の編成と いう難題が待ちかまえる。省庁の要求を積み上げるかたちの予算編成をやめ、全面的に見直すというが、限られた時間のなかで、不要な予算に切り込み、組み換える作業は、口で言うほど簡単ではない。思惑通りの財源が十分に確保できないケースがあるかもしれない。

 早く結果を出し、有権者の期待にこたえたいと思うだろうが、前例踏襲をやめ、新しい 仕組みに変えるのは、途方もないエネルギーと時間がいる。高山を目指す登山隊が、まず低地にベースキャンプを築き、徐々に高度を上げていくように、一歩ずつ距離をかせぎ、足場を着実に固めていく遠大で、精緻な戦略が必要になってくる。

 自民党が結党以来、ほぼ独占的に政権党の座にあったため、日本には米国や英国のよう に、政権の引き継ぎに関する慣行やルールがない。自然災害への備えや外交・安全保障上の危機管理は当然として、昨年のリーマン・ショックのような経済危機や急激な円高といった経済動向にも十分な目配りが必要だろう。民主党にまず求められるのは、政治の「安定」である。きょう船出する鳩山政権を危なげなく巡航速度に乗せ、満を持して「変化」に挑んでほしい。