渡辺史敏の「from New York(フロム・ニューヨーク)」

2006年05月18日

松井の謝罪、謝らない米国社会に衝撃

 前回、ヤンキース松井秀喜の左手首骨折直後の地元メディアの様子をお伝えしたが、今回のアクシデントはその後全米のメディアにもう1つの衝撃を与えることとなった。それは骨折翌日の12日、手術後に広報を通じて松井から出された声明が原因だ。

 英語で出されたもので「連続試合出場に向けて、毎試合、起用してくれたことに関してはトーリ監督にとても感謝しています。申し訳ないと思うと同時に、チームメイトを落胆させたことに私も失望しています」という内容。松井らしい誠実で、悔しさに溢れたコメントだが、これがアメリカのスポーツ・メディア関係者にはビックリするものだったのだ。

 その理由は「アイ・フィール・ベリー・ソーリー」と、最上級の謝罪の言葉が使われていたためである。アメリカのスポーツ関係者がこのようなコメントを発表する際、まずこのような“謝罪”を口にすることはない。残念、落胆といった種類の言葉はあっても、誰かに“謝る”ということはないのである。それが麻薬やステロイドといった問題によるものであってもだ。

 この“謝らない”傾向は個人主義色の強いアメリカ社会には元々強いが、スポーツ界では契約問題などビジネス面もあって特に先鋭化してしまっているのが現実である。

 それ故松井が出したこの声明はさまざまな人々に衝撃を与えることになったのだ。

 ヤンキースのGMブライアン・キャッシュマンはこの声明に対し「マツイは特別だ。選手としてだけではなく、人間として素晴らしい。すべての選手が彼のようであってほしい」と話したという。

 また、ニューヨークを遠く離れたフロリダ州の日刊紙オーランド・センティネルのデイビッド・ウィットリーは「マツイは謝罪とともに完璧な英語を話す」と題した15日付けのコラムで、ほとんどのスポーツ関係者がこうしたことで謝罪しないことと、それがファンなどの不信感を助長していることを指摘し、マツイに学べとまで書いている。同じフロリダ州のブラデントン・ヘラルド紙でも同様のコラムが掲載された。

 さらにヒューストン・クロニクルやトロント・サンなど、数多くのメディアが松井の“謝罪”という言葉を見出しに入れて伝えたのである。

 こんなことがここまでのニュースになるアメリカ・スポーツ界もどうかと思わざる得ないが、そんな中で、感銘を与える松井はやはり素晴らしい人物というしかない。無事手術も成功したようで、あとは彼が望む通りシーズン内の復帰を祈るばかりだ。それが実現すれば、さらに松井に影響を受ける人が増えるに違いない。

May 18, 2006 10:40 AM