Mの事が気になり、あまり眠れなかった私は、
カーテン越しの明るさから夜明けを感じていた。
昨日の快晴は、ただの気紛れだったのだろうか?
カーテンの僅かな隙間を縫うように部屋へと入り込む、
日差し特有の光のアートを今日は楽しむことが出来ない・・・
わざわざ外を覗き込まなくても、それがいつも私に天気を教えてくれる。
厚い雲が空を覆いつくそうとしていた・・・
心を闇に委ねようとしていた、ある少女の決意を映し出すかのように・・・
※
「今日は雨やから傘持って行けや〜」
一々口煩いと思われようとも,心配性の私はそう声を掛けずにいられない。
いや、私の心配性は、妻の余りのドジさ加減が作り出したようなものだ。
「うん、分かってる〜」
私がそう忠告するのは、最初から分かっていたと言わんばかりに、
妻は全く間のない切り返しをする。
彼女曰く、『女性の朝は忙しい』らしい・・・
(自ら忙しくしているのでは?)と思ってしまう私は、
きっと、『女心というものが分かっていない』と断罪されるだろう。
「それじゃ、行ってきま〜す♪」
私にとって、この時間まで起きていた時の彼女の『行ってきます』は『おやすみ』と同じだ。
昼からの仕事に備え、私は睡魔に弄ばれる様に眠りに落ちた。
※
「ああ、やっぱり雨降ってるわ〜」
仕事を終えた彼女を待っていたのは、
勤労を労う拍手の様にも聞こえる集中豪雨だった。
「・・・マジ最悪。何でウチが家に着くまで待ってくれへんの?」
妻は時々、女の子らしい奇想天外かつ無理な注文をする。
たかが人間の小娘に、『最悪』と言われたことに余程腹が立ったのか、
ポツポツどころか、バチバチという音が立つくらい、
彼女の失言を攻め立てるかのように雨足が急加速した。
「・・・イヤや、もう・・・」
泣き言を聞き入れてくれない自然相手に、女の泣き落としは通じない。
渋々、帰路につく事にした・・・
「今日は雨だから、バス」
いつもは運動がてら、散策を楽しみながらの帰宅となるが、
雨の日だけはバスに乗るというのが、彼女の中ではお決まりになっている。
彼女自身も、この選択で1つの運命が左右される事になろうとは知る由もなかっただろう・・・
※
季節外れのアジサイのように、色とりどりの傘が広がる。
この中では、急ぎ足も侭ならない。
「あ〜あ、布団もビショビショちゃうんかよ・・・」
いきなりの豪雨に曝された布団は、
濡れると言うより、水に浸かった様に萎びれていた。
「干す前に天気予報見ぃへんか?普通・・・」
バス停へと歩きながら、他にも濡れた洗濯物がないか探してみる。
ふと、もう少しだけ上を見た時に、マンションの屋上が視界の中に入った。
「・・・・・・え?」
ただ、愕然とする他に表現出来る方法はなかった。
マンションの屋上には、ただ1人、傘も差さず、
ずぶ濡れの少女が朦朧とした表情で地上を見下ろしていたのだ。
「ちょ、ちょっと・・・」
周りを見渡しても、自分以外に誰もそれに気付いている人はいない。
この雨の中、傘の死角に邪魔されて見えないのだ。
恐る恐る、また上を見上げてみる。
その時にはすでに、少女は手摺に手をかけていた。
まるで、越えられない境界線を取り払おうとするかのように・・・
「ええ〜〜・・・マジかよっ!」
迷っている暇などないことを悟った彼女は、
ただ只管、マンションの入り口を目指して走りだした。
中編へ続く
P・S
実話のオンパレードである。この手の話が尽きる事は恐らくない。
「あのねぇ、お前はコナンか???」と言いたくなるほど、
妻は事件・事故、特に問題児や重大な悩みを抱えている者に遭遇する。
正確に言えば、事件や事故の一歩手前の、ギリギリの状況や、ギリギリの人間に遭遇してしまう。
私一人で出掛けている時は、全くそのようなことはないので、
昨日のMの件も、恐らく妻と一緒でなければ遭遇しなかったであろう。
それゆえに、「相談員や補導員などになれば、妻より右に出るものはいない」のである。
こちらから問題児を探さなくても、向こうの方からやってくる。
しかも、彼女が発見した状況や人間は、ほとんど彼女が一人で見事に解決しているのだから凄い。
「私、夜回り先生になろうかな?」と、今日の出来事で自信が付いたのか、得意気に話していた。
だから、私も、「お前にはそういう天性の才能がある」と、数年前から言っているのに・・・
よく根拠も示さずに、「○○の場合が多い」という表現を記事で使っているのも、
彼女のお陰で事例と出会う事が容易なので、統計にない実態を知っているからである。
しかし・・・一緒にお出掛けする度に、私の寿命は縮まるばかりだ。
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奥様には、きっと人助けの才能があるんですよね 天性の何かが・・・
2007/3/6(火) 午後 0:35
そうですね。助ける才能も、何より「助けを求めている人を引き付ける能力」も持っているみたいです。ですから、こういう話が後を絶えません。まるで動く駆け込み寺みたいです。
2007/3/6(火) 午後 1:16