前エントリーで、イギリス経済の中枢部に人民解放軍、つまり中国政府が関与していると見られるコンピューターハッキングによる産業スパイのニュースが、今月1日に英タイム紙で報じられた記事を紹介しました。
このタイム紙の報道にはまだ続きがあり、前記事では「ヨーロッパの最大級のエンジニア会社の一つと石油大企業」が中国からサイバー攻撃に会ったと書かれていましたが、2日後の記事ではそれが、ロールスロイス社とロイヤル・ダッチ・シェル社である事が書かれており、ロールスロイス社へのスパイはNATOの軍事機密目的、シェル社に関してはアフリカの油田開発に関わる情報、更にシェル内での組織的な中国人工作員の活動など、より具体的な内容が書かれています。
このニュースは国内では同日のAFP通信[1]で一部紹介されています。
From The Times
シェルとロールスロイスの企業秘密が中国のスパイ攻撃を受けている
2007年12月3日 ザ・タイムズ紙 (英国)
ジェームズ・ロシーター
世界最大の旅客機エアバスA380に搭載されたロールス・ロイス製の超大型エンジン(2007年3月24日撮影)。©AFP/Bryan McManus |
大企業のコンピューターシステムへの侵入など、英国経済の中枢に対するスパイ活動を中国政府機関が支援していると言う英国保安部による警告に続いて、ロールスロイス社とシェル社に対するスパイ攻撃に関するニュースは伝えられた。
ロールスロイス社のコンピューターネットワークに不正アクセスした中国が背後にいるコンピューターハッカーの攻撃は、保安部関係者に「もう少しで(システムを)破壊する所であった」と言わせた事からも、その様子は伝わって来る。ロールスロイス社のエンジンは、世界の多くの主要航空会社に使用されており、英軍や米軍などNATOの多くの加盟国の軍用機にも採用されている。
英国とオランダの合弁企業であるシェル社は、テキサス州ヒューストンでスパイのアラームに対処し、中国のアフリカにおける事業のために、シェル社の機密の価格情報を得る国家規模の諜報作戦で、シェル社で働く中国国籍の従業員がその作戦に利用されたと、情報筋は本紙に語った。
世界最大の旅客機エアバスA380の納入会見に出席したロールス・ロイスのジョン・ローズCEO(2007年10月15日撮影)。©AFP/LIONEL BONAVENTURE |
ロールスロイス社のコンピュ−ターサーバーへの不正アクセスは「バーチャル攻撃」と呼ばれていると情報筋は言う。「中国の人民解放軍の(情報)活動はかなり前からあるが、最近特に活発化し、彼等はロールスロイス社内部のITシステムに不正アクセスしようとした」と語った。
情報局保安部のジョナサン・エヴァンス長官は、「中国政府機関」による攻撃に晒されている銀行、会計士オフィスや企業のトップやセキュリティ責任者の300人に非公開の書簡を送ったと、本紙は今週末報道した。
国家基幹防護センターのウェブサイト上のその概要には「書簡の内容は以下の内容をハイライトする:中国政府機関が支援する電子的な攻撃により、英国経済が打撃を被る可能性および、その攻撃が最新鋭のITセキュリティシステムを破るように設計されている事への長官の懸念」と書かれている。ロールスロイス社が、エンジン設計図や修理コードなど最重要機密情報を中心にして、そこに何重ものファイアーウォールでプロテクトしているのはその他多くのネットワークと同様の事である。
ロールスロイス社のネットワークへの不正アクセスは、ウィルスに含まれたソフトウェアコードの特製トロイがサイトにダウンロードされた後に起こり、それは同社のITサーバー内部の情報を外部流出させた。
当初その不正アクセスは英国国内から行われたと考えられていた。しかしロールスロイス社のネットワークは北欧や米国など国際規模で広がっている。
情報筋は「彼等は完全には内部に侵入しなかったが、それが十分に大きな攻撃であった事が懸念の材料である。探知される以前に彼等は「重要でない情報」とされる物を得ただけである」としている。
米シェル社は、ヒューストン本社(テキサス州)における「特殊利益グループ」の存在を摘発した。それは中国国籍を持つ従業員グループで仕事の後に頻繁に会合を持っていた。しかしそのネットワークグループは「中国人リクルートの最前線」であった。
それは中国国内に家族を持つ従業員がターゲットにされる「社会工作員」という形を取っており、彼等は「母国の利益のために」支援をするように言われ、「それは一種の脅しであり、中国人従業員は情報を漏洩するようにプレッシャーを与えられていた事を、このヨーロッパの石油会社はスパイの活動に気付きそれを暴いた」と情報筋は語っている。ロールスロイス社とシェル社は本紙の取材に対しコメントを避けた。
プライスウォーターハウス・クーパーズ社の鑑識技術組合のギャロッド・ヘガーティ会計士は、どの会社のITネットワークへの不正アクセスも、ネットワーク上での総攻撃を難しくするために「ファイアーウォールと何重ものセキュリティシステムに守られた強固なものであるべきである」と語った。