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特定の政策目的のため、税金の免除や軽減など税率変更を行う租税特別措置(租特)の行方が注目されている。住宅購入を促すための住宅ローン減税や、企業の研究開発、設備投資を支援するための減税など、09年度は7兆3510億円の減税が実施された。民主党は租特の一部を廃止して、1・3兆円の財源を捻出(ねんしゅつ)すると政権公約(マニフェスト)に掲げており、減税の恩恵を受けてきた経済界などは警戒感を持って事態を見守っている。
租特は法律で決まっている税率を、例外として変更する制度。09年度の租特は全部で310項目ある。ガソリンにかかる揮発油税の税率を引き上げてきた暫定税率もその一つだが、税率引き上げはごくわずかで、減税や税の免除がほとんどだ。
今年度の税制改正では、ハイブリッド車など低燃費車の自動車重量税などを減免する「エコカー減税」や、住宅ローンを組んで住宅を購入すると、最大で10年間で500万円の所得税が減税となる「住宅ローン減税」の拡充が始まっている。
例外的な措置であるはずの租特だが、50年以上も続いているケースもある。政府・与党はそれぞれに国民生活の向上や経済活性化に資する理由があるとしているが、民主党は「租税特別措置は特定業界への形を変えた補助金。税の公平性の面で問題がある」と主張。全面的に内容を点検して、「必要なものは恒久化し、不要なものは廃止すべきだ」と見直しを訴えている。
例えば、肉用牛を売って得た所得は100万円まで非課税とされている。このことをとらえ民主党は、今年6月の国会で「なぜ牛を売った利益の所得税は減免されるのに、豚や馬はだめなのか」と批判し、政府側が「厳しい国際競争にさらされている肉牛農家を守るのは政策的に正しい」と説明する一幕があった。
企業関連では、研究開発費を法人税から差し引いたり、中小企業の設備投資費用の一部を課税所得から控除する優遇税制などがある。民主党は具体的にどの租特を廃止すべきかは明確にしていないが、ある経済団体の幹部からは「租特が減れば、日本の企業の国際競争力が低下する」と懸念する声も上がっている。【斉藤望】
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石油化学製品の原材料ナフサへの免税 3兆5940億円
住宅ローン減税 8560億円
確定申告を要しない配当所得 3200億円
法人の研究開発減税 2540億円
中小企業の設備投資減税 2500億円
地価税の停止 2020億円
年金受給者の公的年金控除の特例 1710億円
土地売買の所有権移転登記の軽減 1220億円
退職年金積立金への法人税課税停止 1170億円
中小企業の法人税率軽減 1100億円
沖縄・離島空路の航空機燃料税の軽減 100億円
肉用牛の売却による農業所得の課税特例 80億円
住宅の耐震改修費の所得税額控除 10億円
7兆3510億円
毎日新聞 2009年8月22日 東京朝刊