ORIGINAL CONFIDENCE 2006.2.6号 PRODUCER INTERVIEW

秋元 康氏[作詞家]

『秋葉原48劇場』から新アイドルグループが生まれる!?
「テレビで広範囲に伝えようとしてもヒットは生まれにくい。
小さな点から輪を広げていくことで、ムーブメントを起こす」

Profile 1956年生。作詞家。高校時代から放送作家として頭角を現し、『ザ・ベストテン』など数々の番組構成を手がける。83年以降、作詞家として、 美空ひばり『川の流れのように』をはじめ、数多くのヒット曲を生み出す。最新作はKinki Kids『SNOW! SNOW! SNOW!』。
91年には松坂慶子・緒方拳主演『グッバイ・ママ』で映画監督デビューし、その後『マンハッタン・キス』、『川の流れのように』を撮る。企画・原作の映画 『着信アリ』(04年公開)、『着信アリ2』(05年公開)。05年4月、京都造形芸術大学教授就任。
TV番組『おしゃれイズム』『うたばん』『とんねるずのみなさんのおかげでした』などの企画構成、ラジオのパーソナリティ、『SAY』・『WILL』の連載など、 多岐に渡り活躍中。

独自のカルチャーを発信し、何かと熱い話題をふりまく街、東京・秋葉原。そこに新たなスポットが誕生した。昨年12月8日にオープンした「秋葉原48劇場」 である。そこは、秋元康氏が総合プロデューサーを務めるアイドルプロジェクト・AKB48(アキハバラフォーティーエイト)の専用シアター。ここで月曜日を除く毎日、 メンバー全員による公演が行われている。コンセプトは、会いに行けるアイドル。テレビや雑誌の中の遠い存在ではなく、常に身近にふれあうことができる、新感覚の アイドルとして注目を集めている。この劇場のねらいと今後の可能性について、秋元氏に伺った。

地熱のある秋葉原から“お祭り”を仕掛ける

− 秋葉原48劇場プロジェクトの経緯についてお聞かせ下さい。
秋元 最初に構想を立てたのは2年くらい前です。僕もずっとテレビ番組を作ってきていますが、近年、テレビというメディアで伝える事が非常に難しくなって きたと感じていたんです。もちろんテレビは何よりもいちばん強いメディアですけど、子どもからお年寄りまでみんなを楽しませるというのはなかなか難しい。今は、 最大公約数の時代から最小公倍数の時代になっていると思うんです。すごくエネルギーを持った人たちとか、すごく面白がっている人たちがいて、そこから輪を広げて いく方がやりやすいんじゃないかと。今、テレビで何か仕掛けようと思ってもなかなかヒットしないけれども、例えば『電車男』のように、誰かが面白いと言った ものが、ブログなどでどんどん広がりましたよね。虫メガネで太陽光線を集める時に、絞った方が発火しやすいのと同じで、小さな点から始めるのがいいと思うん です。テレビはすごく広範囲に熱は当たるけれども、絞り込めない。だから、どこかに劇場を作って、そのピンポイントからムーブメントを起こしたいと思った。 では、どこに作ろうかという話になり、今いちばん地熱がある場所ということで、秋葉原にしました。
− 決して、最初から秋葉原に作ることを前提にしたものではなかったんですね。
秋元 そうです。まず劇場を作るという構想が最初にあって、それから場所を選びました。ただ、お祭りを仕掛けるには、いちばん盛り上がってるところで 仕掛けたかったですし、今の秋葉原のエネルギーの高まり具合はいいなと思いましたから。
− 入場料1000円というのもお手頃ですね。
秋元 コンセプトが「いつでも会いに行けるアイドル」ですから。アイドルって、サイン会とか握手会とか、あるいはコンサートくらいしか会える機会がない ですよね。それが、劇場に行けばいつでも会えるわけです。とにかく多くの人に見てもらってエネルギーをつけなければいけないと考えたので、1000円にしました。 入場料に関しては、大きな決断でしたね。半年に一度コンサートに来てくれるようなファンではなく、まずは熱心に何度も来てくれるようなコアなファンを作らない と、エネルギーにならないですから。最初は、秋葉原によく来てくいるような人たちが興味を持ってくれて、そこからどんどん広がっている状況です。
− 楽曲の作り方など、80年代アイドルの曲とそれほど変わってない印象ですが。
秋元 基本的には変えていませんね。もう少し今っぽいサウンドにしたほうがいいかなとも思ったんですけど、お客さんは「楽曲が非常にいい」と言って くれています。何より、女の子たち自身がすごくいいと言うのを聞くと、時代は変わっても、アイドル曲というのはこういうのがいいんだなと思いましたね。

秋葉原48劇場はファンの手で作られていくもの

− 実際にステージを見ましたが、客席からものすごい熱気が感じられました。
秋元 ネット上の書き込みとかもすごいんですよ。ファンの人たちだけの輪があって、そこからどんどん広がっているんです。僕も劇場にしょっちゅう 行っています。ファンの人たちと直接話して、どの子が人気があるのか、どの曲が評判がいいのか、相当リサーチしています。それだけじゃなくて、僕もネットに 書き込んだりしています。たとえば、「3人のユニットを作ってデビューさせればいいのに」という声があったので、「じゃあ至急それをやります」というように 書き込んだり。公式サイトではなくて、ファンの人たちが作っている、いろいろなブログなどを検索したり、たまたま見つけたところに書き込んだりしています (笑)。
− 秋元さんが自ら直接ですか(笑)。
秋元 僕が本人だとわかってもらうために、僕しか知らない情報をわざと入れたりしています。一度、お客さんのMVPを作ろうとしたんです。その日、 客席でいちばん応援してくれた人を表彰してメンバー全員のサインが入ったTシャツをプレゼントしますって。そうしたら、ネットですごい量の書き込みがあって、 「ファンを差別するのか」と。つまり応援の仕方だっていろいろあって、ジャンプする応援もあれば黙って見ている応援もあるんだと。僕はその通りだと思い、 すぐ次の日にスタッフから謝ってもらい撤回しました。すると、今度はその対応にまた感動してくれるんです。
− ファンの声がすぐに反映されるんですね。
秋元 それから、ファンの間で自然に決まり事やルールが出来ていくんです。たとえば、ステージ前の左右に柱が2本あって、客席から全員を見渡せない 作りになっていて、僕らも心配していたんですが、これが逆に思わぬ効果を生んだんです。つまり柱があることによって、それぞれが、自分の好きな贔屓の子を 見られるポジションに座るようになった。その座席に女の子の名前を付けて「誰々シート」という呼び方をしているんです。他にも、今カフェで働いている女の子 たちがすごく人気が出てきて盛り上がっているので、彼女たちをメンバーとして入れることももちろんあります(※註)。そんなふうにファンの皆さんが自分たちで 作っていって、僕らの想定外のことが起きるのがいちばんうれしいんですよね。かつて、おニャン子クラブのときも、オールナイターズのときも、想定外の子が 人気が出たりしましたけれど、やはりアイドルというのは、計算で作れるものじゃないなと。ですから想定内のアイドル、つまり僕らプロが作るアイドルの時代は 終わったんだと思うんですよね。想定外のことが起こりやすい、その最たる形がこの劇場だと思います。

(※註)12月オープン時のメンバーは20名だったが、カフェでスタッフとして働いていた一人が、ファンの人気を受けて1月22日より正式加入。出演 メンバーは21名となっている。

予想を上回る盛り上がりの早さ

− CD発売の他、テレビ電話とのコラボなど、メディアミックス展開が進んでいます。
秋元 正直、盛り上がるのが早過ぎて戸惑っています。本当は、半年くらい彼女たちに苦難の道を歩ませたかったんですけどね。最初はお客さんもあまり 入らなくて、徐々に動員数が増えていく…というのを想像していたんです。でも思った以上に業界の反応がすごくて、テレビ局や出版社から、番組とか写真集とか、 いろいろなお誘いをいただいています。CDにしても、本当は劇場にこっそり自主制作盤のCDを置きたかったんですけど、いろいろなメジャーのレコード会社に声を かけていただいて。もう少し後になってからテレビ番組とか、コマーシャルとかが決まっていくとよかったんですけど、どんどん決まっていきました。まあ贅沢な 悩みですけど。皆さんが、こういうものを求めていたんだなと思います。やっぱり、劇場という仕掛けが面白かったんでしょうね。今までもいろいろなアイドルが いましたけど、常設で毎日やってる専用劇場というのはありませんでしたから。それに、何といっても新しいエネルギーを感じてくれるんじゃないでしょうか。 つまり、この劇場から、いろんなところに広がっていく“可能性”を面白がってくれてるんだと思います。
− 当面の目標は。
秋元 オープンして約2ヶ月、今でもかなりの数のお客さんに来ていただいていますけれど、毎日ソールドアウトになって、チケットにプレミアがつくように なるのが一応の目標ですね。それは、CDがどれだけ売れるかよりも重要なことなんです。そうなることによって、この劇場にエネルギーが集まって、すべての発信 基地になっていきますから。そして、NYのアポロシアターのように、ここから人気のある子がソロデビューしたり、女優になったり、タレントになったり、あるいは お笑いになったりしていけばいい。AKB48は、アイドル育成ですけれども、タレント養成の場なんですよ。ここで彼女たちが才能を磨いて、さまざまなものを目指す きっかけになればいいなと思っています。

AKB48(アキハバラフォーティーエイト)
http://www.akihabara48.com
 「いつでも会いにいけるアイドル」というコンセプトで立ち上げられたアイドルプロジェクト。
 現在、オープニングメンバーとして7924人の応募者から厳選された20名と、ファンの人気を得てカフェのスタッフから仲間入りした1名の、計21名(11歳〜21歳)が 秋葉原48劇場に出演中。そこで歌われる楽曲はすべて、秋元康氏の作詞によるオリジナル曲。振り付けは、モーニング娘。等を手がけることで知られる夏まゆみ氏が 担当。
 今後、追加オーディションでメンバーが募集され、最大48名を定員として、一軍24名と二軍24名に分けられる。その後もファンの人気投票によって昇格・降格が 行われるため、メンバーたちは毎日のステージで研鑚を積みながら、一軍24名の枠を争いつつ、最終的な目標であるソロデビュー(=卒業)を目指すことになる。
AKB48プロジェクトは、TBSで放送中の、広告代理店を舞台としたドラマ『ですよねぇ。』(毎週木曜24:55〜25:25)のストーリーとも連動。また1月中旬より、NTT ドコモの携帯電話FOMAとのコラボレーション「テレビ電話×AKB48」(PCサイト http://www.tv-denwa.jp iモードサイト http://i.tv-denwa.jp) も開始。 メンバーの日記、振り付け講座などの動画コンテンツが見られる。また、間もなく予定されている追加オーディションでは、このテレビ電話でメンバー候補生の 動画を視聴する形で2次審査が実施される。
写真は昨年12月7日に秋葉原48劇場で行われた記者会見の模様。

秋葉原48劇場
■所在地 東京都千代田区外神田4-3-3 ドン・キホーテ秋葉原ビル8F
■公演時間 平日 19:00〜 土・日・祝 13:00〜、18:00〜 (月曜日は休演。都合により変更もあり)
■入場料金 1000円(税込)

「桜の花びらたち」2月1日発売(AKB-101)

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