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携帯・ICカード、大学が積極活用

2009年9月14日

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 友人に講義の代返、代筆を頼む。みんな、とは言わないが、大学時代、そんな経験のある社会人も少なくないだろう。だが、もう、その手も通用しなくなるかもしれない。携帯電話やICカードなど最新機器を生かし、出席管理に使ったり、利用を検討したりする大学が現れたからだ。

■端末配布の学部も

 青山学院大は5月、昨春できた社会情報学部の全学生と教職員計約550人に、米アップル社製の携帯端末「iPhone 3G」を配った。簡単なテストやリポート提出などに通信機能を活用し、欠席した時や復習用に講義の動画配信もする計画だ。

 導入は、iPhoneを販売しているソフトバンクグループと大学が基本協定を結んだことがきっかけ。情報社会に通用する人材育成に力を入れる同学部を中心に、ソフトの共同開発などを進めるという。iPhoneの本格運用は今秋から。端末の基本料金を大学側が支払い、私用以外の通信料に学生の負担はない。

 学習への活用だけではない。大学は、出席管理にも端末を利用する予定だ。

 出欠の確認には、全地球測位システム(GPS)機能が使われる。出欠管理用のソフトが入った携帯端末から学生が「出席」の情報を送ると、学校側のサーバーに位置情報とともに入力される仕組みという。学生の居場所を常に把握するわけではないが、出欠時に教室にいるかどうかが分かるため、これまで大教室の講義で見られた「代返」ができなくなる。

 友人に預ければ代返は可能だが、大学は「個人情報が入っている携帯端末を他人に貸すことはありえないという前提です」と話す。

 最先端の技術を出席管理に使っている大学はほかにもある。ICカードで出席を取っているのは、明星大(東京都日野市)だ。05年から、学生証をカード化。講義中に出席を取る時間を省略するため、出席管理に利用している。

 ゼミ室などを除く332の教室のドア付近に読み取り端末を計415台設置。学生は講義開始の15分前から5分後までの間にカードをかざさないといけない。「ピッ」と鳴れば、認識済み。1秒の遅れも許されない。それ以降は「遅刻」となる。

 学生はSuicaなどでICカードに慣れており、抵抗はないようだ。経済学部2年の女子学生は「カードで出席を取るのは近代的な感じ」と話した。

 「現代大学生論」などの著書がある溝上慎一・京都大准教授(高等教育)は「かつての大学は講義に出なくても自分で学べばいいという感覚だったが、今は講義に出てしっかり学ばせることが大学教育改革の基本となっている。出席率は、成績を厳格につけるための大きな判断材料だ。講義に出席させたうえで、学生がどう成長しているのかを見ていくことが重要だ」と話した。

■離学者対策に一役

 ICカードを使った出席管理システムは、情報通信会社「サクサ」(東京)が開発した。東北工業大、明星大、大阪経済大、福岡大など全国で約40大学が導入している。代返防止には「学内で使える電子マネーなどを入れると、貸し借りがしにくくなると思う」という。

 厳しくなる大学の出席管理。ただ、うまくいかずにやめてしまったり、そもそも「導入すべきか」と議論になったりした大学もある。

 ICカードによる出席管理をやめてしまったのは武蔵野美術大(東京都小平市)だ。04年から、五つの大教室にICカードのカードリーダーを付け、試験的に導入した。

 しかし、カードを忘れた学生への対応や機器の扱いでトラブルが続出。教務課によると、「対応に十分な数の職員がいない」と、3年間の実施で、システムの中断を決めた。ただ、教員には好評だったため、「近く復活したい」という意向もある。

 また、明治大は昨秋、Suicaの機能が付いた学生証を学生約3万人に配布した。図書館やパソコン室の入退室などに利用されている。

 出席管理にも応用でき、一時、学生の間に「もう代返は頼めない」という話が広がった。実際、大学側も将来的な利用には含みを残す。しかし、「大学生は自ら学ぶものという意見もあり、学内で議論が整理できていない」といい、現段階で使っていない。

 実際のところ、学生は、どう対応しているのか。

 明星大の学生の一人は「友達の分まで何枚もやる人や、読み取り機にかざしただけで帰る人もいる」。そして「先生も分かっているから、講義中に抜き打ちで出席を取ることがある」。

 もっとも、「なりすまし」や「かざしにげ」が完全に防げないのは、大学側も承知のうえのようだ。

 同大の場合、導入の最大の目的は代返防止ではなく、「離学者対策」だった。連続欠席者がパソコンで一目で分かるので、すぐに学生に連絡を取り、引きこもりが続いて中退するのを防ぐことができる。名取淳・教務企画課長は「昔は、講義に出てこなくても、自分で勉強して何とか単位だけは取る学生が多かった。今は欠席が続き、そのまま退学してしまうケースが多い」。そのうえで「保護者から預かった以上、学生の面倒を見ないといけない時代になった」と話した。出席状況は、保護者会でも一人ひとり説明し、好評だという。(葉山梢、石川智也)

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