民主党の鳩山由紀夫代表は4日、組閣へ向けた人事の調整に着手した。16日の首相指名までまだ2週間近くもあり、従来の自民党政権の組閣手順と比べ大幅に人事の内定が早まる見通し。これにより、主要閣僚内定者が現政府との窓口となって情報提供を受け、民主党の方針を伝える政権移行作業がスタートする。ただ、鳩山氏の側近・平野博文氏を官房長官に起用する人事は「小沢一郎幹事長」が掌握する党執行部との調整を重視した「小沢シフト」。幹事長から外相へ転じる岡田克也氏の処遇にも、党内バランスに配慮した内向きの論理がにじむ。【田中成之、佐藤丈一】
「(特別国会で首相に指名される)16日まで相当、日がある。その間にさまざまな助走が必要になる」
民主党の鳩山代表は4日、民主党本部で記者団に語り、政権移行を円滑に進めるため主要閣僚の人選を急ぐ考えを示した。
同日、明らかになったのは、長く民主党をけん引してきた岡田幹事長や菅直人代表代行の起用により、宿願の「政権交代」実現をアピールする布陣だ。官房長官に内定した平野役員室長は知名度は低いものの鳩山代表の信頼は厚く、小沢代表代行が幹事長となって仕切る与党との調整役を担う。
ただ、岡田氏は幹事長留任を希望していた経緯があり、鳩山氏が「小沢幹事長」を選択した結果の外相起用という側面は否めない。定期的に訪米してオバマ政権のキャンベル国務次官補ら米国要人との人脈を構築してきた「知米派」であると同時に、中国、韓国とのパイプも作ってきたのが岡田氏だ。「対等な日米」と「アジア重視」の両立を目指す鳩山外交の適任者であることは間違いない。
一方で、財政規律を重視する岡田氏は衆院選マニフェスト策定の際、ガソリン税の暫定税率廃止や、子ども手当支給の完全実施時期の前倒しに慎重な姿勢を示すなど財源論にこだわった。官房長官や財務相に起用すれば、総額16.8兆円の財源を必要とする党の独自政策の調整に手間取る場面も予想される。
消費税率引き上げを前提に年金制度の抜本改革を主張してきたことも、消費税論議を当面封印する「小沢・鳩山路線」とは食い違う。とは言え、岡田氏を主要閣僚に起用しなければ岡田氏支持グループの反発は必至。小沢氏の意向と党内バランスに配慮した結果の外相起用とみられる。
鳩山氏は小沢氏の幹事長起用を3日に内定させたうえで閣僚人事の調整に動いた。側近の平野氏を官房長官に起用するのは「鳩山氏と国会対策の両方をよく理解している」(鳩山氏周辺)との理由から。秋の臨時国会では自民党が鳩山氏の個人献金問題を攻撃してくることも予想され、平野氏が国会対策に通じていることを重視。平野氏は小沢氏との関係も良好で、選挙などの党務と国会対策を仕切ることになる小沢氏との調整役としての抜てきでもある。
官房長官は政府のスポークスマンであり、省庁間の政策調整も担う看板ポストのイメージが強い。平野氏は衆院当選5回の中堅議員に過ぎず、党内からは「軽量官房長官」とやっかむ声も聞かれる。
一時、菅代表代行の官房長官起用も有力視されたが、「独自のアピールに走りがち」との批判が鳩山氏周辺から出ていた。「(橋本内閣の厚相として)薬害エイズ問題で官僚に打ち勝った経験とオールマイティーな能力」(中堅)への評価は高く、予算編成や無駄遣いの究明で官僚組織と戦うことになる国家戦略局や行政刷新会議を担当する方向で調整が進んでいる。
毎日新聞 2009年9月5日 2時30分(最終更新 9月5日 2時30分)