きょうの社説 2009年9月15日

◎金大法科大学院 北陸唯一にふさわしい実績を
 法科大学院の修了者を対象にした今年の新司法試験で、金大は昨年の4人を上回る11 人の合格者を出し、合格率も9%から22%へ上昇した。合格率の向上は一定の前進といえるが、全国平均の28%には届かず、北陸3県唯一の法曹養成機関としては物足りなさを感じる。

 中教審の法科大学院特別委員会は4月に出した報告書で、入学定員の削減や試験、修了 認定の厳格化などを提言した。4回を重ねた新試験を経て合格状況を「教育成果」とみる傾向はますます強まるとみられ、結果を出せない大学院の淘汰は必至である。

 司法制度改革の柱の一つとして導入された新司法試験は社会の関心も高く、合格状況の 推移は大学全体の評価にもかかわってくるだろう。金大も試練に立たされている厳しい状況に変わりはない。法科大学院の質の向上を全学的な課題と受け止め、生き残りをかけて教育内容の改善を進めてほしい。

 今年の試験は昨年より1131人多い7392人が受験し、昨年より22人少ない20 43人が合格した。合格率は過去最低で、人数も初めて前年を下回り、2010年ごろに合格者を3千人に増やす政府目標の達成は極めて困難となった。初めて全74校から合格者が出たが、合格率40%以上の大学院が8校あった一方、一けた台も14校に上り、序列の固定化が一層鮮明になった。このままでは合格率の高い大学院に優秀な学生が集まり、結果を出せないところは法曹志望者から敬遠される「入り口」段階の二極化が進む可能性がある。

 文部科学省の指導を受け、来年度は定員が軒並み減少し、金大も40人から25人にな る。合格率の低迷が続けば法曹輩出の実数は極めて少なくなる。北陸3県の法曹界を巻き込んだ協力体制を強化し、少人数の利点を最大限に生かした教育体制が不可欠である。

 今後、法科大学院の統廃合が避けられないとしても、地方の法曹充実のためには政策的 な配慮は必要との指摘もある。金大の「地域に根ざした法曹教育」という理念はよいとしても、その存在意義を示すためにも相応の実績が求められることを認識する必要がある。

◎「きぼう」で栽培実験 富山発のアイデアに注目
 微小な重力下で、植物は種子から発芽し、花を咲かせ、再び種子をつくり出すことがで きるのか。国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」で、富大大学院理工学研究部の神阪盛一郎客員教授による植物を使用した初の長期生育実験が始まった。

 もし宇宙ステーションで植物栽培が安定的にできるなら、長期滞在に必要な酸素と食料 が入手可能になる。神阪客員教授らは筑波宇宙センター(茨城県つくば市)から宇宙飛行士と交信しながら装置を遠隔操作し、実験を通じて人類の夢に挑む。富山から生まれた実験のアイデアがどのような成果をもたらすか、大いに期待したい。

 植物は、筋肉や骨などの代わりに、膨大なエネルギーを費やして丈夫な細胞壁をつくり 、自分の体を支えている。重力のある環境に適応するためだが、微小重力の環境下では、重力に逆らって体を支える必要がないため、筋肉や骨が衰えるように細胞壁も退化してしまう。こうした環境下で植物を栽培したら、細胞壁を固くするためのエネルギーは、いったいどこに使われるのか。細胞壁が柔らかい植物はどんな特徴を持つようになるのか、興味が尽きない。

 実験に使われるシロイヌナズナは、花が咲いて種子を収穫するまでの時間が短い。植物 としては世界で初めてゲノム全体が解読されているため、遺伝子レベルでの比較調査が簡単にできるという。実験では、30日目と種子が取れる60日目に標本を採取し、来年3月に地球に持ち帰る。細胞壁の強度分析や細胞壁の構築にかかわる遺伝子の解析を通じ、成長サイクルに重力がどのような影響を及ぼしたかを詳細に調べれば、多くの新事実が判明するだろう。

 この実験の素晴らしさは、子供にも分かりやすく、知的好奇心を刺激する夢があること だ。人類が宇宙で生活していくには植物の力が不可欠であり、実験は宇宙での植物生産に向けた基礎データになる。また、実験で使う植物実験ユニットは、小さな「植物工場」といってよく、その技術は地上の農業にも応用できる。北陸生まれの宇宙実験の成果に注目したい。