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困った会社見本市

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うまくいっていない社長の励まし方が難しい件について

2009 / 9 / 7

 景気がこれだけ厳しいということは、ごく一部の時流に乗った会社を別にして、ほとんど全部の会社は思ったように売り上げが伸びていないことを意味します。突然、大口の取引がキャンセルになってあぜんとする社長あり、1日に1件も注文や問い合わせが来なくて、暇で暇で耐えられなくなる社長ありと、状況は様々であります。

 当方にとって問題なのは、そういう不況に直面して、改めて孤独と不安に苛まれた経営者が、わらにもすがる思いで連絡を取ってくるときです。

 正直こちらも困ります。当事者でもないし、そう簡単に解決策が見つかるなら、景気はたちどころに回復し、世の中に起きる困難な事件や問題のあらかたは解決しているでしょう。

 でも投資先だったり取引先だったり友人だったりすると「忙しいから」とむげに電話を切るのも気が引けます。何か、意味のありそうなことを話さなければなりません。

 こんなとき経験から言って、一番やってはいけないのは激励です。「いまは不景気だけど、そのうち持ち直してくるから頑張れ」といった内容です。そうすると必ず「いつまで我慢すればいいのか」とか逆ギレ気味に聞かれて返答に窮したり、「問題の先送りに過ぎない!」とか政治家の答弁みたいな反論が来て始末に負えません。はては「麻生政権の不況対策は生ぬるい」とか、電話口で経済論議に相成ります。そんな暇があるなら営業電話をかけるなり新商品のアイデアを考えればいいのに。

 とはいえ、先方の経営戦略の改善点について込み入った話をするのも危険です。ややもすると取引先を紹介してくれとか金貸してという話に容易につながり、精神衛生上よろしくありません。特に、金を借りたそうな雰囲気というのは、電話口からでもビンビンに伝わってきます。

 最近は、担保があるのに銀行が金を貸してくれないという話は、保証協会の枠が増えたこともあってそれほど聞かなくなりました。しかし、もう目一杯借りちゃってる企業や、創業したばかりなのに今回の不況にぶち当たったような企業などはやっぱり苦しい。

 そんなわけで、近頃は「そんな泣き言を言うような経営者だったのですか」というような、突き放し気味の発言をするように心がけています。だって、状況が厳しいのは彼の会社だけではないもの。どこも皆苦しんでいるし、これからだって苦しいでしょう。だけど、人を雇い、やりたい仕事を自分のやりたいようにできる経営者だけにしか味わえない自由や楽しみもあるはずです。

 創業したり事業を継いだときの、ワクワク感や希望のようなものを、心身ともに疲れ切った日本の経営者にもう一度思い出してほしいです。いや、本当に。

(注:本コラムは日経トップリーダー2009年5月号からの転載です)

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プロフィール

山本 一郎 やまもと いちろう

イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。父親が抱えた負債を返済するため学生時代から株の個人投資を始め、ゲーム制作や投資事業などを手掛ける会社を起業。ブログなどで経済・時事問題に関する批評を展開し、インターネットでは「切込隊長」と呼ばれるカリスマ的存在。著書に『ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々』(扶桑社)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など。


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