2009年9月14日
変わり種の時代劇映画が今秋、相次いで公開されている。アニメ映画の原作ものや時代考証にとらわれずイメージを飛躍させた作品まで、その「異色」ぶりは様々。今とは異なる時代だからこそ描けるドラマに、現代感覚の作り手たちが挑んでいる。
12日に公開された小栗旬主演の「TAJOMARU」(中野裕之監督)は芥川龍之介の小説「藪の中」を大胆にアレンジした。「時代」の枠を飛び越えたファンタジックな表現で際立っている。室町時代という設定だが、パンクファッションのような「和テイスト」の衣装や幻想的な装置、ラップ調の歌などが時代設定を忘れさせる。
配給するワーナー・ブラザース映画が春に公開した「GOEMON」も時代にとらわれない表現が特徴的。同社ローカルプロダクションの上木則安調整部長は「いわば『モダン』時代劇。従来の時代劇と違う新しさに共感した」と話す。
白土三平の人気漫画が原作の「カムイ外伝」(19日公開)は娯楽性を追求する一方で、差別問題に光をあてた。被差別民という束縛から逃れようと忍者になった青年カムイ(松山ケンイチ)が、忍びの道を抜けて命を追われることになる。脚本・監督は「血と骨」などの崔洋一。脚本には宮藤官九郎も加わり、人物の感情をリアルに描く。
企画を立ち上げた05年ごろは、「格差社会」という言葉が頻繁に使われ出す少し前だった。榎望エグゼクティブプロデューサーは「『不寛容な世間』が蔓延(まんえん)させる閉塞(へいそく)感を常に日本社会に感じていた。ネガティブな澱(おり)を払い、少し先への道を示してくれる人物像を探していた」。
公開中の「BALLAD 名もなき恋のうた」(山崎貴監督)は、02年公開のクレヨンしんちゃんのアニメ映画が原作だ。一国の姫(新垣結衣)と侍大将(草なぎ剛)との身分の違いを超えた切ない思いをきめ細かに描く。
「ALWAYS 三丁目の夕日」で知られる山崎監督は時代劇を撮るのは初めて。「秘められた恋はすごく魅力的。戦国時代という特殊な状況でしか表現できない」
異色の時代劇の公開は、来年も続く。
「座頭市 THE LAST」(阪本順治監督)はSMAPの香取慎吾主演。従来のアウトロー的な面に加え、市と妻との愛情も描くなど新しい「市」像を目指す。
よしながふみの同名漫画が原作の「大奥」(金子文紀監督)は、疫病の流行で男性人口が減り「男女の役割が逆転した江戸時代」という大胆な設定。「SF」の領域に踏み込んでいる。
「大奥」の荒木美也子プロデューサーは、「リアルだとひいてしまうことも、『時代劇』という器をかぶせることでスルッと入ってくるものもある。新しい時代劇から、現代のおかしさや不安定さを描きたい」。(増田愛子)