今夏、中国の「南京大虐殺記念館」を見る機会があった。以前訪れたことはあるが、二年前のリニューアルからは初めてだった。
面積が大幅に拡張され最新技術で見せられる虐殺事件の展示に胸を痛めた。
それ以上にショックだったのは増設された日中近代史に関する展示だった。
そこでは日清戦争以来の近代史を日本の侵略の歴史と描き台湾統治や日露戦争、日中戦争に至るまでの残虐行為を告発している。
以前も説明文で近代史に関する言及はあったが、独立した展示はなかった。
日中両国は近代、西洋の圧力にともに苦しんだ。清国のアヘン戦争敗北の衝撃は明治維新を促した。
中国革命の父、孫文は日露戦争の日本の勝利をわが事のように喜び、日本留学熱が沸騰した。孫文の革命の夢を命がけで支援した日本の有志も少なくない。
残念ながら南京の展示には、こうした史実への言及はなく日中の近代史は暗黒に塗りつぶされていた。
胡錦濤国家主席は昨春の早稲田大講演で明治以来の日本の近代化成功を「日本人民の誇りで中国人民が学ぶに値する」と述べた。
この精神が生かされていれば展示は日中関係の悲劇とともに希望も伝えることができたのではないか。
九月初めに予定されていた日中歴史共同研究の発表は延期された。歴史問題の難しさとともに率直に意見を言い合える関係の必要を痛感した。 (清水美和)
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