厚生労働省は4日、新型インフルエンザワクチン接種の実施案を公表した。医療従事者や基礎疾患のある人など約1900万人が優先接種対象で、その他の対象者として小中高校生や高齢者約3500万人を挙げた。10月下旬に出荷が始まる国産ワクチンは原則として優先接種に使い、その他の対象者には12月下旬以降に使用可能になる輸入品を接種する。6日から1週間、厚労省のホームページなどで意見を募り、9月中に正式決定する。
厚労省はワクチン接種の目的を「死亡や重症化を減らすこと」と定義。必要な医療を確保するため、インフルエンザの診療に携わる医療従事者を最優先にした。次いでリスクの高さから、妊婦と基礎疾患のある人を2番目に、1歳から就学前の小児と、1歳未満の小児の両親を3番目に位置づけた。また、小学校低学年(10歳未満)も、可能なら優先接種対象にするとした。
1歳未満の小児は、ワクチンで免疫を付けるのが難しいため、両親に接種して感染を防ぐ。「基礎疾患のある人」の病気の詳細な定義は、今後詰めるとしている。
優先ではないものの接種対象とされた小中高校生と65歳以上に使う輸入ワクチンについては、国産にはない補助剤が入っており、国内臨床試験などで安全性を確認し、問題があれば使用中止もあり得るとした。
国産ワクチンの生産量は、2月末までに2200万~3000万人分とされる。全量を優先接種に使い、余った場合は基礎疾患がない小学生らに割り当てることも検討する。ただし、生産効率が下がった場合は1800万人分にとどまる可能性もあるといい、その場合は優先接種にも輸入ワクチンを使用する。
接種場所や費用負担、副作用の被害補償などは今回の案で触れておらず、厚労省は8日に開く自治体への説明会で大枠を示す予定だ。【清水健二】
◇新型インフルエンザワクチンの接種対象(厚生労働省案)◇
《優先接種対象》=10月下旬以降、国産ワクチンを原則使用
(1)インフルエンザ患者の診療に携わる医療従事者(約100万人)
(2)妊婦(約100万人)と
基礎疾患のある人(約900万人)
(3)1歳~就学前の小児(約600万人)と
1歳未満の小児の両親(約200万人)
《その他》=12月下旬以降、輸入ワクチンを原則使用
小中高校生(約1400万人)と
65歳以上の高齢者(約2100万人)
※基礎疾患は▽呼吸器疾患(ぜんそくを含む)▽心疾患(高血圧を除く)▽腎疾患▽肝疾患▽神経疾患▽神経筋疾患▽血液疾患▽代謝性疾患(糖尿病を含む)▽免疫抑制状態(HIV、がんを含む)。基礎疾患のある1歳~就学前の小児を優先
※小学校低学年は可能なら優先接種
新型インフルエンザのワクチンは、患者の重症化や死亡を防ぐのが目的で、発症予防や流行拡大の防止効果は明確ではない。厚生労働省の試算によると、早ければ10月上旬にもピークを迎える恐れがあり、その場合は供給が間に合わない。ワクチンの果たす役割と限界を理解し、それに頼り切らない対策に国全体で取り組む必要がある。
ワクチンは肺炎などの重い合併症や入院、死亡などの危険性を減らす。血液中で抗体を作り、ウイルスの増殖を防ぐためだ。しかし、感染後の増殖を防ぐことはできても、感染そのものを防ぐことはできない。
また体内で抗体が増え、重症化防止の効果が出るまでには時間がかかる。菅谷憲夫・けいゆう病院小児科部長は「10月末から接種を始めても効果が出るのは12月からで、(厚労省の想定している)流行のピークには間に合わない。ワクチンはインフルエンザ対策の切り札ではない」と指摘する。
このため治療薬タミフルなどの活用と共に、集中治療室(ICU)や人工呼吸器などが必要となる重症患者に対応する態勢を、地域ごとに整えることなどが重要だ。世界保健機関(WHO)の進藤奈邦子医務官は「国内で発生初期の関西の学級閉鎖は効果があった。公衆衛生学的な対策を社会が踏ん張って続け、流行のピークをできるだけ遅らせることが課題になる」と話す。
医療現場からは「どのように優先者を接種するのか。ピーク時に現場は混乱するだろう」などの声も出ている。【江口一、関東晋慈】
毎日新聞 2009年9月4日 21時12分(最終更新 9月5日 0時24分)