高速無料化、イバラの道…業界反発、環境問題
新政権発足を目前に控え、民主党が目玉政策として掲げる高速道路の原則無料化の行方が注目を集めている。
物流コストの引き下げなどで地域経済を活性化させるとの主張に対し、鉄道やバスなど利用者減を懸念する業界は一斉に反発する。財源問題や環境への配慮など解決すべき課題も多い。無料化は本当に実現できるのか。
◆秩序破壊◆
「バスの利用者はお年寄りなど交通弱者が多く、なくなれば地方は疲弊する。民主党は影響を理解していない」――。九州バス協会の竹島和幸会長(西日本鉄道社長)は10日、高速道路の無料化見送りを求める陳情に訪れた国土交通省で訴えた。
無料化されれば、マイカーを選ぶ人が増え、高速バスの利用者が激減する――。バス業界の脳裏をよぎる不安は高速料金の「上限1000円」で一気に増幅された。料金割引が導入された3月以降、利用者は急減。お盆期間にも値下げが適用された8月は1日平均の利用客数は前年比で12%減だ。
高速路線を収益源とするバス会社にとって、無料化は地域路線の維持にも影を落としかねない。
フェリー業界も「無料化で多くの事業者の経営が立ち行かなくなる」(中国旅客船協会連合会)と警戒する。ここでも「上限1000円」の影響で3本の本州四国連絡道路と競合する各航路を中心に輸送実績は1〜3割落ち込み、中国地方の3社が事業停止に追い込まれた。
交通業界の不満は、無料化という急激な変化が交通ネットワークの秩序を破壊するという点にある。JR西日本の佐々木隆之社長は10日の記者会見で、無料化は交通機関の“すみ分け”のバランスを崩すことを指摘し、「それぞれの交通機関が持つ設備に余剰が出る事態を招く」と危機感をあらわにした。
◆生活道路に◆
民主党は高速無料化の狙いを「物流コスト・物価を引き下げ、地域と経済を活性化する」と説明する。高速道路が生活道路として生まれ変われば、地域間の交流が活発になる。トラックの輸送費が下がり、地方産品を消費地に運びやすくなるというわけだ。
こうしたメリットに「東京市場に遠隔地の魚がどんどん届くようになる」(東京都水産物卸売業者協会)、「市場はインターチェンジの近くに多い。買い物客が増えて活性化する」(青果の卸売関係者)などと期待する声もある。
メリルリンチ日本証券の推計では、高速無料化によってヤマトホールディングスで70億円、日本通運で40億〜50億円程度のコスト削減につながり、営業利益を10%以上押し上げる効果があるという。
家計への影響は微妙だ。家計調査によると、1世帯当たりの「有料道路料」への支出額は08年で8923円。無料化でゼロになったとしても、民主党が無料化の財源としている年1・3兆円は、国民1人当たりにすれば1万円超の負担という計算になる。
◆CO2排出◆
功罪ともに指摘される無料化には「環境」という観点からの議論も高まっている。NPO環境自治体会議環境政策研究所によると、高速道路の無料化、ガソリンの暫定税率廃止が実施された場合、二酸化炭素(CO2)の排出量は少なくとも年980万トン増加するという。上岡直見主任研究員は「近距離でも高速道路を利用する人が増え、経営が悪化した鉄道やバスの便数が減る。車の利用自体が増えることも考慮すれば、影響は2倍、3倍に拡大する」と指摘する。
民主党の鳩山代表は20年までの温室効果ガス削減の中期目標について「1990年比25%削減」とする考えを打ち出している。高速無料化と温暖化対策の整合性をどう取るかが問われそうだ。(経済部 栗原健、山下福太郎)
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