國歌   君が代

      君が代は
      千代に八千代に
      さざれ石の
      巖となりて
      苔のむすまで


  我が國の國歌「君が代」は、形式から言へば一首の和歌であり、その初出は延喜五年(基督暦九〇五)編の『古今和歌集』卷七「賀歌」の卷頭であります。そこでは初句が「わが君は」となつてゐました。その形ならば、歌の主題である祝賀の心を捧げる相手は、謂はば誰でもよい目上の個人となるわけですが、早い時期に初句を「君が代は」とする別形が發生し、やがてその方が廣く知られて定着します。この形になりますと「君」即ち「天皇」に象徴される日本の國家と國民の永久の繁榮を、さざれ石が凝結していはほに成長する長い歳月に比(たぐ)へてことほぐ歌と受取られ、爾來千年、國民的愛誦歌として樣々の文藝作品に取入れられて歌ひつがれて來ました。明治初年に、國際社會に伍しての國家儀禮には國歌が必要だとの認識が生ずると共に、極く自然にこの古歌が國歌として選定され、雅樂の趣を帶びた曲もつけられて國際的にも高い評價を得るに至つたのであります。(解説 小堀 桂一郎)