あの人は今こうしている　十枝晃太郎さんが振り返るクスリ漬けから更生への道

　芸能界に蔓延する薬物汚染。酒井法子や押尾学など売れっ子だけではなく、芸能人の子供もしばしば薬物関係の容疑で逮捕され、マスコミをにぎわせる。歌手の千葉マリアの長男、十枝晃太郎さんもそうしたひとりだ。１０年以上もクスリにおぼれた。

●大麻、覚醒剤、コカイン、ＭＤＭＡ…と手当たり次第だった

「初めて薬物に手を出したのは１９歳のとき。某大学の学生だった中学校時代の同級生に誘われましてね。彼の友人たちと一緒に大麻を回しのみしたのが最初でした。当時の学生にとって大麻吸引はある種のファッション、それがかっこいいと思ってた。ボクもそうで、いたずら半分でした。でも、それが落とし穴だったんです。最近も大学生がよく大麻所持や吸引で捕まるじゃないですか。昔の自分を見てるようで気が重くなります」

「いたずら半分だから、いつでもやめられると思ってた」そうだ。

「ところが、そうはいかなかった。だんだんエスカレートしていき、それまで友人から勧められるまま吸っていたのが、自分でおカネを出して買うようになったんです。最初に買ったのはチョコと呼ばれる大麻樹脂で、確か１０グラムで６万円ほど。友人から購入しました。それからしばらくして今度はスピード、覚醒剤に手を出すようになった。これも友人から１グラム３万円ほどで入手しました。その頃、ボクはある芸能事務所で働いてたんですが、１５万円ほどの給料はほとんどクスリに消え、それでも足りずにサラ金から借金するようになった。もう収拾がつきませんでした」

　２３歳のとき、大麻取締法違反で逮捕された。

「大麻を入手するルートがなくなり、探し回ってたときです。たまたま上野公園で偽造テレホンカードを売ってる不良外国人がクスリの売人をしてるってテレビニュースを見たんです。で、危ないのは承知の上で公園に走り、売人と接触して大麻を買ったところ、それを警察官に目撃されて現行犯逮捕されました」

●「これで薬物とはきっぱり縁を切ろうと思いました。でも…」

　裁判で懲役６月、執行猶予２年を言い渡された。

「これで薬物とはきっぱり縁を切ろうと思いました。だけど、ダメだった。執行猶予期間が明けるや、大麻はもちろん、コカイン、覚醒剤、ＭＤＭＡと手当たり次第。２９歳のときに音楽の勉強にニューヨークに行ってからはＬＳＤやクラックにも手を出し、もう見境ありませんでした。で、１年ほどして帰国し、即入院した。もっとも、治療といっても精神安定剤を処方される程度で、効果はほとんど期待されない。そんな治療の入退院を繰り返してました」

“更生”の道を歩むようになったのは３１歳から。

「入院中に薬物依存症の患者をサポートする日本ダルクのスタッフと知り合ったのがきっかけでした。一緒にやめないか、と声をかけられ、本気でやめる決心をしたんです。最初はつらかったですよ。いつもイライラした状態が３年ぐらい続いたでしょうか。それをなんとかして切り抜け、現在に至ってるわけです。正直、今でもやりたくなることがある。でも、同じ悩みを抱える患者と依存症って病気を共有しあうことでブレーキがかかってます。ボクは今、千葉県の袖ケ浦にあるダルクの施設長をやってるんですが、この活動はボク自身のためでもあるんです。母も『サルビア家族会』という会を組織し、薬物依存症の問題に取り組んでます。ボクは母の生き方に抵抗があった。その気持ちが一緒に活動するようになって払拭できました」

（日刊ゲンダイ2009年9月8日掲載）