当確者の名前に花をつけ、笑顔を見せる民主党の鳩山由紀夫代表=東京・六本木の同党開票センターで
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衆院選で民主党が圧勝して新政権が誕生する。財政、福祉、教育、医療、防衛…。政策が大きく変わる中、「技術立国」を支える日本の科学技術はどうなるのか。マニフェスト(政権公約)を踏まえ、変化が注目される宇宙と原子力開発を中心にこれからの方向を探った。 (榊原智康、栃尾敏)
■政治主導へ戦略本部
今の科学技術政策の司令塔は、内閣府の総合科学技術会議だ。議員は関係閣僚や学識経験者らで、議長は首相が務める。政策の方向性を定めて各省庁の事業計画に優先順位を付けることなどが主な役割だ。
民主党は同会議を改め、首相の下に「科学技術戦略本部(仮称)」を設置する方針を明示。「省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図る」ことを狙いとして掲げる。
「総合科学技術会議の位置付けが中途半端。(各省庁の政策の)最大公約数的なものしか出ない」と、民主党科学技術検討チームの内藤正光事務局長(参院議員)。内閣の権限を強め、科学でも政治主導への転換を図る。具体的な体制は、新設する国家戦略局で検討されるという。
このほか国立大の教育・研究経費となる運営費交付金を毎年1%ずつ削減する方針を見直すと明記。素粒子物理と再生医療を例に挙げ「巨額な予算を要する基礎科学研究分野でも世界的な研究拠点を目指す」としている。
■宇宙庁検討 再編一元化で予算を有効に
宇宙では「各省庁の宇宙関係部門と宇宙航空研究開発機構の企画部門を内閣府の下に再編一元化する」(党政策集)との案を掲げる。将来は宇宙機構を含め「宇宙庁」の創設を検討するとしている。
現在は、人工衛星の種類などに応じて各省庁がそれぞれ予算を計上。宇宙機構を所管する文部科学省をはじめ内閣官房や防衛省、経済産業省、国土交通省など関係部門は各省庁にまたがる。
民主党宇宙基本法フォローアッププロジェクトチーム事務局長でもある内藤参院議員は「現状は研究開発と利活用がつながっていない」と指摘。「宇宙予算の爆発的な伸びは期待できない。省庁ごとの縦割りを排除すれば予算を有効に使える」と強調する。
ただ、一元化には課題も。情報収集衛星による安全保障分野も含めるか、宇宙機構の所管官庁をどうするか−などでは曲折も予想される。関係予算の約六割を握る文部科学省は懸念を強める。坂田東一事務次官は「一元化のメリットとデメリットをきちんと分析して新政権に伝え、よく検討してもらう必要がある」と話している。
■原子力 放射性廃棄物『国が最終責任』
マニフェストを詳細にした民主党政策集では、原子力利用は「安全を第一に、国民の理解と信頼を得ながら着実に取り組む」とする。基本的には自公政権と変わらない。
日本の原子力政策の柱は、使用済み核燃料を再処理して使う「核燃料サイクル」。再処理技術の確立と、最大の課題である放射性廃棄物の処分事業について「国が最終責任を負う」と明記。立地地域との関係では「国と自治体との間で十分な協議が行われる法的枠組みをつくる」とこれまでより踏み込んでいる。
環境問題では「温室効果ガス排出量を二〇二〇年までに一九九〇年比25%削減」との高い目標を掲げる。太陽光発電などの積極導入や省エネ推進がその手段だが、現実には原発抜きでは難しい。
「方向性は推進なので心配はしていない。小さな方針転換はあっても基本的にぶれないでほしい」と電力トップは話す。だが、連立を組むことになる社民党は脱原発を明確に打ち出す。「核燃料サイクル計画を凍結、再処理と(一般の原発でウランとプルトニウムを混ぜた燃料を使う)プルサーマル計画の中止、原発からの段階的撤退」を掲げており調整は難航しそうだ。
●記者のつぶやき
科学技術も政治と無縁ではいられない。政権が代われば、「人、物、金」の配分が変わる可能性がある。でも、科学技術は日本が生き延びるための“飯の種”にもなる。党利党略や利益誘導で左右されてはいけない。 (栃)
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