2009-09-10 07:24:14

my name is MOT鈴たん弁当(発売後3日)

テーマ:ブログ
サンクスさんは、明後日から「世界のしあわせごはん」というお弁当を発売されるようです。ホームページを拝見しましたが、「イギリスのbaked beansが入っていたら良いのに」と、残念に思っています。市場調査でリクエスト上位に食い込まなかったのでしょうか。パックス・ブリタニカの勢いは、baked beansに十分残っています。チャールズ・ダーウィン生誕200年の今年、古典遺伝学から分子遺伝学までを世界でリードし続けているイギリスです。

「鈴たん弁当」発売の喧騒も一段落したので、イヌの毛色の話(B.M. Cattanachの研究に注視しながら)を続けたいと思います。

[C] イヌゲノム解析の現状
 イエイヌの毛色発現機構の解明には、昨今のゲノムサイエンスにおける2つの進展が貢献した。イヌゲノムの解読と、それと平行して作成されたイエイヌ系統樹である。かつてリンケージマップであったものが、ヒトゲノムとのシンテニー検索により、詳細な遺伝子地図となった。驚くことにイエイヌの『優性黒色』発現機構とは、皮膚の免疫を担当するβ-defensinをリガンドとするMc1rを介する反応であった。
 イエイヌの被毛の黒色/黄色は、3つの遺伝子:Mc1r, Agouti およびβ-defensin, により制御されていることになる。3遺伝子とも野生型の場合、Mc1rへ拮抗リガンドであるAgoutiが結合してeumelanin形成を抑制し、黄色の表現型になる。Mc1rが機能喪失性変異型の場合、残りの2遺伝子の変異の有無にかかわらずeumelaninが形成されず、黄色の表現型になる。Mc1rとAgoutiが野生型で、β-defensinがグリシン欠損変異型(KB)の場合、Mc1rにβ-defensinグリシン欠損型が結合してeumelaninを産生し、黒色の表現型になる。
 β-defensinは比較的小型のペプチド分子で、上皮細胞で発現されて細菌やカビ類に対する生体の自然免疫の役割を果たす。ヒトでは、気道および肺胞、消化管、尿道、子宮の上皮細胞で発現され、発現低下はクローン病や嚢胞性繊維症と、過剰発現は皮膚の過敏性反応と、それぞれ関係がある。
 哺乳綱に分類される動物約4120のうち、2007年の時点で、β-defensinをリガンドとするMc1rを介したシグナル伝達機構が報告されたのはイヌだけであった。『優性黒色』の遺伝子型を持つイヌは自然免疫能が高いのだろうか。

[D] 黒色オオカミの存在
 北米オオカミは居住地域により、森林北米オオカミと高緯度ツンドラ地域を住処とする北米オオカミ(カナダ北米オオカミ)とに分けられ、両者間には毛色に違いがある。すなわち、野生色頻度はカナダ北米オオカミの方が森林北米オオカミより高い。一方、黒色個体はカナダ北米オオカミでは稀だが、南カナダから森林地帯に下るにつれ頻度が上がる。このように、北米オオカミの毛色が白色~野生色~黒色と幅を持つことに加え、本来の毛色とは独立に加齢性脱色(eumelaninは沈着するがpheomelaninの沈着はない)が発現することもあり、被毛の表現型決定メカニズムは未解明のままであった。
 ブレイクスルーは、Yellowstone 国立公園へのオオカミ移入実験がもたらした。少数のカナダ北米オオカミ(1995年3月に14頭、1996年1月に17頭)をYellowstone国立公園へ移入したところ、Yellowstoneに生息する北米オオカミ(Yellowstoneオオカミ)の毛色が、野生色:黒色=1:1という表現型割合を示した[14]。この値は、『優性黒色』を発現する遺伝子がカナダ北米オオカミに存在することを強く示唆し、イヌゲノムデータベースを用いた北米オオカミのゲノム解析開始となった。
 先ず、Agouti, Mc1r, β-defensinの遺伝子解析を行った。Agouti, Mc1r遺伝子に見いだされた変異は、黒色被毛の表現型と直接関係するものではなかった。一方、β-defensin遺伝子のグリシン欠損変異を、黒色被毛のカナダ北米オオカミ100%と黒色被毛のYellowstoneオオカミ98.1%に認めた。同変異を、野生色被毛のカナダ北米オオカミ60.0%に認めたが、白色被毛のカナダ北米オオカミとYellowstoneオオカミには認めなかった。
 次に、優性黒色に関る連鎖不平衡を検証した。Yellowstoneオオカミの3世代14頭では、黒色被毛とグリシン欠損β-defensinとの間に連鎖不平衡があった。すなわち、Yellowstoneオオカミは、黒色発現に関与する未知遺伝子をAgouti,Mc1rとは別の染色体にもち、イエイヌの場合と同様の遺伝様式を示すことが強く示唆された。
 さらに、β-defensinゲノムの単一塩基多型を調べた。同遺伝子を中心とする前後各75kbのゲノム領域では、単一遺伝子多型発生頻度1/510bpで、全ゲノムの単一塩基多型発生頻度平均(1/580bp)と有意差がなかった。すなわち、この領域は、変異が起こりやすい領域というわけではなかった。
 β-defensinを中心とするもっと狭いゲノム範囲(前後各30kb)のSNPsを検索すると、北米オオカミのKB対立遺伝子にだけ、SNPsが特異的に少なかった。北米オオカミのうち森林北米オオカミでは『優性黒色』の表現型頻度が高いことから、北米オオカミの棲息のためにKB変異が何らかの正の選択を与えた、と考えられた。

[E] オオカミの被毛の黒色化変異はいつ起きたのか、仮説と検証
 イエイヌの黒色被毛は、古い犬種にもアジア・アフリカ犬種にも広く認められる。一方、ハイイロオオカミの黒色被毛は、北米で報告されるだけである。北米オオカミの進化を探るために近縁種であるコヨーテ4)のゲノムを調べたところ、コヨーテにもグリシン欠損β-defensinゲノムが存在した。このことから3つの進化仮説が成り立つ。(a)β-defensin遺伝子のグリシン欠損変異はイヌの先祖に起こり、それは、コヨーテが先祖型オオカミから分岐する以前で、100万年以上前の出来事であったろう。(b)グリシン欠損β-defensinは最近、イエイヌ, ハイイロオオカミ, コヨーテに順次起きたのではないか。(c)β-defensinの遺伝子グリシン欠損部位は変異のホットスポットで、イエイヌ,オオカミ,ハイエナにそれぞれ独立に起きたのではないか。
 北米オオカミ,イエイヌおよびコヨーテについて、KB, kyの各対立遺伝子を比較したところ、3種間でパターンが似た。β-defensinのアレル共有距離5)を比較したところ、亜種間SNPsが存在せず、KBアレルを共通祖先から受け継いだことがわかった。このことから、(a)仮説(被毛の黒色変異は単一種のオオカミ時代に起こった)が支持された。その後、近縁種のコヨーテや亜種のイエイヌを分岐しながらハイイロオオカミとして進化する過程で、KBとky間に相互組み換えを起こしながらイエイヌ,ハイイロオオカミ,コヨーテ各種へ受け継がれ、KB,kyアレルがそれぞれにSNPsを集積していった。この間イエイヌにおいては、ヒトによる黒色を好む選択圧のためにグリシン欠損β-defensin遺伝子が集積した。そして、イエイヌから北米オオカミへ偶然の交雑によりKBアレルが再導入され、北米オオカミの古いKBアレルがイエイヌのKBアレルに置き換わった。この推論は、北米オオカミの地理的(居住地)分布とも矛盾しない。
 KBアレルがオオカミ家畜化前後のいずれに起きたか、非常に微妙である。イエイヌは、15,000—40,000年前に東アジアにおいてハイイロオオカミから家畜化された。一方、KBアレルは変異発生から46,886年を経過していることが、分子時計で判る。ヒトは、イエイヌを連れて12,000—14,000年前にベーリング海を渡り、アメリカ先住民になった。そのとき、イエイヌから北米オオカミへ、休止状態となっていたKB対立遺伝子に交代して再度新たにKB対立遺伝子が再導入され、北米オオカミの新KB対立遺伝子は、何らかの選択圧によって高度に保持されていた。

選択圧とは、一体何だったのだろうか。




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