物は言いよう

週刊金曜日 マガジン9条

2007-06-12

[]太田光×北野武「“毒”占対談」@ウィークリーぴあ

サンジャポで、アメリカで話題のピアノを弾くネコの話題が出たときに、田中さんが大のネコ好きと紹介されたんですが、そのことについてパネラーがまったく知らなかったんですよ。

田中裕二ネコ大好き人間」だということを知らずに、よくサンジャポレギュラー名乗ってんな〜と日曜の朝から不快でした(笑)

って、冒頭から関係ない話をしてしまいましたが…。


ご覧になれなかった方もいらっしゃるようなので、書き起こしてみました。

では、どうぞ。

「誰も真似できない映画ほどスバラシイものはない!」

太田:『監督・ばんざい!』観ました。監督本人を前に緊張するんですが、一番印象的だったのが、武さんは今の日本でウケている映画をボロクソに言いたかったのかなって。

北野:うん。なんか腹立ってさ。『フラガール』とか賞もらったりしたじゃない。でも俺は「あんなもん、常磐ハワイアンセンターに行きゃあ充分だろ!」っていうのがあるんだよ。自分の映画に客が入んないっていうのもあるだろうけどさ、タイトルを聞いただけで、その内容を客が全部わかっちゃうような映画なんてダメだろって。

太田:毒なのか敬意なのか。今回は劇中の映画監督が、いろんな作風に挑戦していますよね?

北野:うん。で、全部失敗しちゃうの(笑)実際の撮影は、真面目にやっているんだけどね。真面目に撮った上で、編集する段階でアラ探しをして、ツッコミを入れたの。くだらない、お笑い映画にしたかったから。

太田:その中の1作、昭和30年代を舞台にした『コールタール力道山』が、僕は大好きで。あれって、同じ時代を描いてウケた『(ALWAYS)三丁目の夕日』なんか越えちゃってるんじゃないかと思ったんです。まぁ、僕は『三丁目の夕日』を観てないから、本当のことはよくわかんないんだけど(笑)

北野:俺も観てない(笑)観てないんだけど、腹立たしいじゃない。俺の知ってる昭和30年代なんて、あんなに優しさとか愛に溢れたもんじゃなかったから。差別もなにもひどかったしさ。

太田:ホラー映画もありましたけど、あれは……ひどかったですね(笑)

北野:だろ?あれはね、編集でツッコミを入れるうんぬん以前の問題だった。怖がらせるほうのヤツがさ、能面をかぶってんだけど、面をとっても全然怖くねぇんだもん。俺の場合、ヨーロッパにもファンがいてくれるじゃない。彼らは頭がいいから、『Dollsドールズ>』なんかのアート映画を褒めてくれるんだけど、そいつらががっくりするような映画を作りたくてね。今回はなんの意味もないぞ、くだらない映画だろ、ざまぁみやがれって。

太田:でも、僕はヨーロッパの人たちに近い感想も持ちましたけどね。なにもないというわりには意味深なシーンもあったから。それこそが北野映画のすごさじゃないかとも。

北野:うーん、どうなんだろうな。ただ、映画を撮ってる時は「これ、ほかの映画監督は絶対やらないだろうな」という自信はある。やるやらない以前にやらせてもらえねぇだろうなって。映画で赤字が出ると頭かかえちゃってね、「申し訳ない!」と思うんだけど、俺にとっては、映画が当たる当たらないって、また別の問題なんだよね。


太田:武さんは、映画を観るのも好きなんですか?

北野:嫌い。なんか面倒くさくて。

太田:でも、今回の映画にしても、受け取り方によっては、「映画好きに捧げる」というニュアンスもありますよね?

北野:そうだよなぁ。俺ねぇ、ニュースでもそうなんだけど、あらゆるものをなるたけ見ないようにしてんの。それでも耳に入ってくるニュースは入ってくる。なにも自分から追いかけるこたぁねえかなって。

太田:小津安二郎へのオマージュ的な1編もありましたけど、実際は小津映画を観てないんですか?

北野:小津さんはね、『東京物語』と『秋刀魚の味』は観たよ。早送りで。

太田:早送りって(笑)そこがね、すごいなって思うんです。僕の場合、当たり前の道筋しかたどれないから。たとえば映画を勉強しようと思うと、まず黒澤明を観てとか、段取りを追わないと不安でたまらないんです。要領が悪いというか、融通がきかないというか。武さんは、生き方自体が、瞬間瞬間な気がするんです。

北野:俺はマズイんだよなぁ。映画に限らず漫才師になったのも、なりたい順番で言えば、俺はえ番目なんだよ。大学の専攻はエンジン設計だったから、1番目はホンダトヨタだったわけ。それが大学を卒業できなくなって(※2004年、明治大学特別卒業認定にて「卒業」漫才師なっちゃんだよなぁ。

太田:その「なっちゃった」がうらやましいんですよ!

北野」そうすっとさ、笑っちゃうんだよ。漫才師で一生懸命なヤツっていたし、映画監督でもいるじゃない。そいつらをみるとさ、下手なくせしてなに一生懸命やってんだよって、笑っちゃうの。

太田:だから、僕は武さんに笑われる側だから困っちゃうんですよ!本音を言えばこう思ってますからね。「武さん、1回でいいからマジでやってくれよ」って(笑)

北野:いや、俺がマジメにやるとさぁ、捕まっちゃったり事故っちゃったりするから(笑)でも、瞬間瞬間っていうのはわかる気がする。一瞬のお笑いだよね。その瞬間、客がどっとウケるかプロとしては失格なぐらいスベるのか。俺、そういう笑いは、たしかにやってきたと思うもん。

太田:たとえば、駅の事故で、駅員が自らの命をかけて線路に落ちた乗客を救うとかあるじゃないですか。あれって瞬間の判断ですよね。この例えの場合でも、武さんは絶対に助けに行くと思うんです。実際に、昔ありましたよね。テレビのドッキリで、相方のキヨシさんがヤクザにだまされるという設定でタケシがどうするみたいな時に…

北野:うん。そのヤクザを殴っちゃったことあった。放送できなくて、オクラ入りしちゃったけど(笑)

太田:そういう瞬間の生き方が、武さんのすごさだと思うんですよね。

北野:でも、俺は太田も同じだと思うけどな。もちろん、お笑いの世界は進化しているから、太田の言葉のチョイスとか、俺よりも繊細なんだけど、おもいっきりの良さとか同じだとおもう。同じような笑いが好きだってすごく感じるもん。たとえば大道具のスタッフのひとりに、吉田ってヤツがいたとするじゃない。太田ってさ、実際にはそいつとは話した事もねぇのに「おい、吉田!なにやってんだ吉田!」とかってイジるのが好きだろ。あぁいうとこ、俺も好きなんだよなぁ〜。

太田:いや、僕がそういう事をするのは武さんの笑いが好きで、それを見て育っているからですよ。

北野:そうかもしれないけど、でも、俺は太田も同じだとおもうな。


太田:映画の話から離れるんですけど、僕は今回どうしても武さんに聞きたかったことがあって。たとえば、世間的には同情ムードしか流れていないニュースってあるじゃないですか。その時、自分だけが笑っている感覚って、ないですか?

北野:あるある。ようするに言っちゃいけないことがおもしろいんだろう?俺が育った環境は、まさにそういうところだったからね。ある日、隣の家で20年間寝たきりだった婆さんが、ようやくくたばったわけ。そうすっとさ、みんなは葬式で泣いてんだけど、うちの親父は平気で言ってたからね。「ほっとしたろ?」って(笑)それはさ、普通に考えたら言っちゃまずいことなんだけど、みんなも笑うんだよな。だって、看病だなんだつって大変で、家族が一番ほっとしてたんだから。

太田:(笑)もうひとつ聞きたかったのが、芸のある、なしについてなんです。僕自身、「俺には芸がない」ってよく口にするんですけど、『監督・ばんざい!』の映画監督もある意味で芸がないですよね?だから、様々な芸風に挑戦しようとしている。で、武さんは、「芸のある、なし」についてどう考えているのかなって。

北野:俺ね、落語なんかは芸だと思う。だって、同じことを2回言っても笑わせてくれるから。そういう意味で言えば、タモリさんまもそうで、彼らの芸って「偉大なるマンネリ」だと思うんだよ。これは悪口じゃ決してなくてね、同じような切り口で同じような言い方でキッチリ笑が取れている。そうなると、芸だなって思う。でも、俺自身は、なんとかして毎回違う言い方をしたいなと思うし、逆に、2度3度と同じ言い回しで笑いは取れない。となると、俺は芸がないってことだと思う。それは太田も同じじゃないの?

太田:いや、僕は全然違う意味で、「芸がない」と言っていますね。結局、僕は見よう見まねだから。誰かの弟子になったわけでもないし、「漫才ってこうやって作るんだよ」と教わったわけでもない。子どもの頃、漫才ブームツービートを見て、夢中になって真似をしていたことの延長線上で今もやっているだけというか。だからバラエティでも、「武さんだったらこう言うよな」ということを生放送で言っちゃってハズすことが多くて。ある意味、武さんのおかげで、僕は失敗もしてるんです。

北野:ははははは!そいつは、俺のせいじゃねぇだろ!

太田:最近だと、「東京の漫才の良さを受け継いでくれ」なんて言われることもあるんですけど、それはちょっと荷が重くもあって(笑)でも、だからこそ、僕にとってのオリジナルである武さんには、1回でいいからマジでやってほしいんですよ!武さん、今回の映画で言えば、途中で照れてしまって、だからやめてしまったところもないですか?

北野:うーん、どうかなぁ。

太田:小津映画へのオマージュでもいいし、『コールタール力道山』でもいいから、あのノリで最後まで撮ってほしいんですよ。マジメに、恥ずかしがらずに。

北野:うん。次の映画はね、ちゃんと撮ろうと思ってるの。ちょっと悲しい映画を撮ろうと。悲しいんだけど実験的でもあって、絵画でいうとキュビズムのようなね。それが撮れたら、ついに映画界から抹殺されてもしょうがねぇやと思うかもね(笑)

TOMO-YATOMO-YA 2007/06/12 01:19 ま〜たけしさん、『フラガール』はともかく、
蒼井優は好きみたいですけどね(笑)
東スポの映画祭でも「かわいいなぁ〜〜」って。
『監督・ばんざい!』は面白かったけど、
やっぱり興収が低い・・・

peace823honeypeace823honey 2007/06/12 23:03
YOMO-YAさん、コメントありがとうございます。
若ければ誰でもいいってことじゃなくてですか(笑)
『監督・ばんざい!』ご覧になったんですね〜。日本よりヨーロッパでの人気が高いようですね、彼の作品は。

おーじろうおーじろう 2007/06/13 09:18 ハッチさん〜〜おはようございます。
書き起こし、おつかれさまです♪ 私は、ぴあの方は読み逃してしまったんで
とても嬉しいです。感謝です!(^O^)
たけしさんと太田さんはかなり一致するとこもあれば、全く真逆
なとこもあって。とても相通じる二人だと感じました。
で、いつも思うことなんですが・・・今回のような大田さん×大物の対談は
雑誌ではなくぜひテレビで放送してもらいたいもんです。特にサンジャポで。
ところで、テレビでの対談といえば来週6月22日(金)の「僕らの音楽」で
爆笑問題×佐野元春が放送されるようです。楽しみです
http://otogumi.fujitv.co.jp/lovekp/2007/06/2007061078ualov_e544.html

peace823honeypeace823honey 2007/06/13 23:38
おーじろうさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
対談、楽しんでいただけたようでなによりでした。
「芸がない」の違う解釈なんか面白いですよね。
テレビでの対談観てみたいですね〜。サンジャポでテリー・ギリアムの対談なんかもやってましたけど、「大物対談」実現してもサンジャポのことですから、あんまり時間を取ってくれなさそうですね…。
「僕らの音楽」お知らせありがとうございます!これは楽しみですね。「サンジャポファミリー」ならぬ「カーボーイファミリー」の佐野元春ですから(笑)またしつこく「サザン元春論争」を繰り返すであろう太田さんが楽しみです。カットされたかな?(笑)

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