きょうの社説 2009年9月13日

◎新幹線の新潟問題 トップ会議で活路見いだせ
 北陸新幹線長野−金沢(白山総合車両基地)の建築認可が、新潟県の受け入れ留保で延 び延びになっている問題の解決を図るために開かれた北信越5県担当部局長会議では、同県を除く4県が早期受け入れの必要性を訴えたにもかかわらず、納得のいく回答を引きだせなかった。同県の「反乱」を主導しているのは泉田裕彦知事であり、当の本人が歩み寄る気配をまったく見せていないのだから、事務方としては何を言われても「知事に報告する」と答えるしかないのだろう。

 もちろん、あらゆる機会を通じて泉田知事に4県の意思を伝えることは大切であり、今 回の担当部局長会議に意味がなかったとは思わない。ただ、工事の一部を請け負うJRが示唆しているタイムリミットは刻々と迫っており、いつまでも悠長なやりとりを繰り返しているわけにはいかないのも事実だ。金沢開業が遅れるという最悪の事態を回避するためにも、4県の知事が泉田知事に会い、ひざ詰めで議論して活路を模索すべきときではないか。

 先月、北陸新幹線建設促進同盟会長の石井隆一富山県知事が電話で泉田知事と話した際 に、同知事は、認可の受け入れについては主張を曲げなかったものの、知事による協議の場を設けることは了承したという。事務レベルの話し合いで着地点を見いだすことができなかった以上、「トップ会議」に望みをつなぐしかない。

 公共事業の見直しを掲げる民主党政権の発足も迫っている。少しでも早く泉田知事の「 突出」を抑え、沿線の結束を取り戻さなければ、新政権によって北陸新幹線の必要性に疑問符を付けられてしまう恐れもあり、2014年度の金沢開業に向け、今が正念場と言ってよい。どの知事も県議会の9月定例会対応に追われる多忙な時期ではあるだろうが、日程調整を急いでもらいたい。

 知事ばかりではなく、市町村長や議会関係者らも、事態打開を目指して努力する必要が あろう。それぞれが持つネットワークをフルに活用して、間接的にではあっても、泉田知事への働き掛けを続けてほしい。

◎日中経済・技術協力 中国の知財保護に疑問
 中国の温家宝首相が、訪中した日本経済界のトップとの会談で、日中の経済協力の強化 を呼びかけた。温首相は今後の重点課題として省エネルギー・環境分野の技術協力を求めたが、会談に臨んだ日中経済協会の日本側企業が知的財産権軽視の傾向が否めない中国政府への警戒心を緩めなかったのは当然である。

 日中両政府は先ごろ、知財権保護の協力に関する覚書を交換し、日本企業が大きな被害 を受けている中国の模造品や商標権侵害対策などで協力体制を強化することになった。大いに歓迎すべき動きであるが、知財権保護に関する中国政府の姿勢には、なお問題点を指摘せざるを得ない。

 当面の課題は、今回の訪中団も指摘した情報技術(IT)製品に対する強制認証制度で ある。通信ネットワークのファイアウオール(安全隔壁)などITセキュリティー関係のソフトウエア13品目を中国に輸出する場合、中国政府の認証を義務づける制度である。中国側は実施を来年5月に先送りしたが、ソフトウエアの設計図に当たるソースコードの開示が強制され、輸出企業の知財権が脅かされるとして日本だけでなく欧米各国が撤回を求めている。

 中国はWTO加盟国として知財権保護の取り組みを強めている。しかし、この強制認証 制度は、知財権を尊重するという中国政府の姿勢自体に疑問を抱かせるものである。今年の上海モーターショーでは、外国車のデザインをそっくりまねた中国車が登場するなど、中国企業の知財権意識も希薄であり、日本企業が省エネ・環境分野の協力で一方的な技術流出を恐れるのはもっともである。

 IT製品の強制認証制度の背景として、国内の先端技術の競争力を高め、知識集約型の 「創新型国家」をめざす中国の知財戦略が指摘される。この問題の打開策として日本側は、IT製品の安全性を一部の国が認証すれば、他の国も認証したとみなす相互認証制度を提案している。現在、日米欧を中心に20カ国以上が参加している同制度は、国際通商を円滑に行う妥当な仕組みと言えよう。