民主党が公約に掲げる高速道路の無料化について、期待の声が聞かれる半面、不安や戸惑いを訴える業者や市民も少なくない。自公政権下で導入された現行の料金割引制度は自動料金収受システム(ETC)搭載車だけが対象で、無料になれば、ETC車載器が無駄になるからだ。無料化に伴って渋滞が発生することへの懸念もある。
「元は取れるのかしら」。福岡市城南区の自動車用品店「オートバックス福岡長尾店」のETC車載器売り場。12日、同市中央区の主婦(43)は頭を悩ませていた。
女性は19-23日の大型連休に大分県内の実家に帰省予定。年末年始は家族旅行を計画している。
いずれも移動はマイカーを想定。ETCを付ければ、現状では高速道の料金は原則1000円で済むが「高速道が早い時期に無料化になれば、ETCの費用を取り戻せないし…」と思案顔。結局、資料だけをもらって店を後にした。
同店によると、今年3月に高速道が休日「1000円乗り放題」となり、ETCの購入希望が殺到。ゴールデンウイーク前には予約待ちが600台を超え、週100台以上は売れたが、民主党が大勝した衆院選後は2-3割ほど販売台数が減った。
ETCの設置には車載器購入費を含め、2万円前後の費用が必要。無料になればETCは不要になる可能性もある。松田信博店長は「今なら十分、元はとれるが…」と無料化の導入時期に気をもんでいる。
高速道が“仕事場”の運送業界。福岡県筑紫野市の運送会社幹部(48)は無料化に反対。「無料になっても、荷主からの値下げ圧力が強まり、過当競争に発展しかねない。また渋滞が発生して、到着時間の遅れなど混乱が生じる可能性もある」と不安をにじませた。
■料金所不要 走りやすく 発案者・山崎養世氏
民主党が公約に掲げる高速道路無料化の発案者であるシンクタンク「山崎養世(やすよ)事務所」(東京)代表、山崎養世さん(50)=福岡市出身=に聞いた。
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ETC車載器を取り付けた人とそうでない人にサービス格差がある現在の仕組みに、そもそも問題がある。
料金無料化で高速道はさらに渋滞するとの指摘もあるが、渋滞の主な原因は料金所付近での混雑だ。無料化すれば料金所が不要になり、出入り口の数を増やすことも可能。一般道との接続がよくなり、利用者は高速道と一般道を使い分けられる。渋滞は緩和され、通行車両の燃費も良くなり、排ガスが減って環境にも優しい。
出入り口の数を現在の4-5倍に増やせば、高速道は生活道路になる。サービスエリアやパーキングエリアを民間に開放することで地方に新たなビジネスが生まれる。
問題は混雑する大都市圏の高速道の扱い。一部地域は現在の有料制を維持し、混雑時や、排ガスの多い車両に別建ての料金設定(ロード・プライシング)をして、ETCを活用する方法もある。
=2009/09/13付 西日本新聞朝刊=