サンデー毎日(2009.9.20号)

バンクーバー五輪は大丈夫?
全日本スキー連盟 専務理事学歴詐称と会長選不正疑惑で迷滑走

全日本スキー連盟 専務理事学歴詐称と会長選不正疑惑で迷滑走  サンデー毎日(2009.9.20号)


2009/09/07  サンデー毎日(2009.9.20号)

バンクーバー五輪は大丈夫?
全日本スキー連盟 専務理事学歴詐称と会長選不正疑惑で迷滑走


半年後に迫つたバンクーバー冬季五輪。メダル獲得が期待されるスキー競技だが、全日本スキー連盟が内紛状態にあるという。一体、何が起きているのか。


 全日本スキー連盟は1925年設立。ノルディックスキーのジャンプやクロスカントリー、滑降や回転などのアルぺンスキー、上村愛了選手などの活躍で知られるモーグルなどのフリースタイルスキー、スノーボードのスノースポーツ統括団体で、西武鉄道社長だった堤義明氏が会長を務めていたこともある。

 そんな歴史ある団体の幹部に学歴詐称疑惑や会長職を巡る訴訟騒動が持ち上がっているというのだ。

 すべての発端は、一昨年秋の日大スキー部の1年生部員(当時18歳)による強姦事件だった。

 この部員は07年10月7日、都内にあるスキー部合宿所近くの公園で20歳の女性に暴行を加え、警視庁に強姦致傷容疑で逮捕された。
しかし、事件が表に出ることはなく、1カ月以上経過した11月中旬、この部員の犯行が余罪とともに一部で報道された。

 全日本学生スキー連盟(学連)関係者によると、同年12月10日になって、当時の日大監督から口頭で「事件を起こしたのは日大スキー部員であること。当該学生は既に自主退学≠オている」と学連に伝えられた。

 しかし、詳細が不明で再度の報告を促したという。そして翌年の08年5月17日付で日大スキー部の島方洸一部長(現・日大副総長)の署名と捺印がされた報告書が、学連に提出された。

 だが、この報告書は具体的内容が確認できないなどずさんで、島方部長に問い合わせると、驚くべき事実が浮上したのだ。関係者が声を潜めて明かす。
「報告書を書いたのは島方部長ではなく、部長印も偽造されていたことが発覚しました。また、前年12月に報告された自主退学≠焉A実際は教授会決定による退学処分でした。つまり、虚偽の報告がされていたことが分かりました」

 日大広報課は、
「ファクスによるやり取りによって、部長が監督にいわば委任していた形になっていました。部長印を偽造したり、勝手に使ったりということではありません。退学の件も、見解の相違かもしれません」

 と弁明するが、学連を管轄する文科省スポーツ・青少年局企画・体育課は、こう語る。
「この報告書は大学側のあずかり知らないところ、つまり、島方部長が認識していないところから出されたものと理解しています。それ以前に島方部長名で提出された文書もすべて、例えば加盟大学が出す年次登録書なども含め、島方部長が書いたものではありませんでした」

 学連の調査によると、過去12年間にわたって偽造された文書が提出されていたというから驚くばかりだ。


訴訟も起こされ内紛¥態に…

「日大スキー部の対応は悪質で、重い処分はやむを得ない」として、学連は08年7月、同部に対しインカレヘの無期限出場停止の処分を下し、現在もそれは解かれていない。だが、事件発覚から処分決定までの間に行われたインカレ(08年1月)で、日大は男女とも総合優勝を果たした。

 さらに、一連の調査中に新たな疑惑が発覚する。

 全日本スキー連盟(SAJ)の実質的ナンバー2である池上三紀専務理事は学連推薦でSAJ理事を務めてきたが、彼に学歴詐称疑惑が持ち上がったのだ。
「日大OBと言っている池上氏は大学を卒業していないのではないか、学歴詐称ではないか、という疑惑です」(SAJ関係者)

 学連の内規には「役員は大学卒業の者」と明記されている。もし大卒が詐称なら、学連の役職に就くことはできない。そればかりか、学連の推薦を受けてSAJの理事に就任することなどあり得ないのだ。

 池上氏は長野五輪で競技本部長を歴任するなど、指導者としての手腕は十分に評価されている。

 学連は今年6月、確認のため池上氏に文書を郵送。すると「過去の会長にご理解いただいている」という返信があつた。再度、「大卒を証明していただきたい。それがない場合は、大卒と認めない」旨の配達証明を出すと、今度は受け取り拒否で戻りてきたという。

 真意を確かめるべく、本誌が池上氏に連絡を取ると、「あとで連絡する」と言ったきり、音沙汰がなくなってしまった。

 学連は近く理事会を開き、池上氏への処分を決定する見込みだ。だが、迷滑走≠ヘこれだけにとどまらない。

 池上氏が専務理事を務めるSAJでは、会長改選をめぐって内紛が勃発、訴訟沙汰になっている。昨年6月の役員選出委員会は紛糾した。元五輪選手で、SAJ関係者がこう解説する。
「昨年9月に3回目の役選委が開催され、70歳定年制を導入したSAJにおける82歳の伊藤義郎会長の再任の賛否が問われました。採決の結果、7対7の同数だったため伊藤氏を推挙できない、という結論に達した」

 しかし、6日後に開かれた評議員会では、その場で決議が行われ伊藤会長の3選が決定した。

 これに反発した一部理事が昨年12月に、会長の職務停止の仮執行を申請。今年3月には本訴に踏み切った。

 伊藤会長は国際スキー連盟の理事や副会長を務めるなど、やはり功績は小さくないものがあるが、
「役選委で会長候補とならなかった伊藤氏がどうして会長に選ばれるのでしょうか。明らかに不当な手続きがあります」

 前出のSAJ関係者はそう話し、本誌はSAJに問い合わせたが、「担当理事から連絡させます」と言ったまま、9月5日現在、連絡はない。これにはスポーツジャーナリストの谷口源太郎さんも呆れ顔だ。
「スポーツの競技団体には、一部の権力を持った人間が何をしても許されるような風潮がある。そんな体質が、伊藤会錠を続投させているのかもしれません。年齢からいっても、けじめをつける時期でしょう」

 アルぺンスキーの皆川賢太郎選手との結婚が話題になった上村選手は、3月の世界選手権で2冠に輝くなどバンクーバー五輪での有力なメダル候補になっている。しかし、SAJのゴタゴタの中、選手たちはオリンピックで活躍できるのか。

本誌・五輪取材班

サンデー毎日(2009.9.20号)
 http://mainichi.jp/enta/book/sunday/archive/news/2009/20090907org00m100011000c.html


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