中日−ヤクルト 今季初勝利を挙げファンの声援に応える山本昌=ナゴヤドームで(谷沢昇司撮影)
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待ってました! 1軍マウンドに戻ってきた44歳のベテラン山本昌が6イニング1失点の力投。通算205勝目は371日ぶりの今季初勝利。38歳・井上一樹も貴重な今季初安打でマサを援護。若竜のハツラツとした活躍もいいが、こんな試合もまた、たまりませんなぁ。
長かった。4月の開幕から半年が過ぎた。9月11日。プロ26年生の山本昌が記録した最も遅いシーズン初勝利だ。
「こういう日が来ると思って頑張ってきて良かったです。必ずチャンスがあると思って気持ちを切らさずに頑張ってきました」
今年初めてお立ち台に上がった。その顔は真っ黒だ。2軍で陽に焼かれ続けた。「暑い時とか、しんどかった」。今年、出場選手登録されたのは4月と6月の2度、計10日間しかなかった。ほとんど2軍暮らし。
「投手陣がみんな調子良かったけど、どこかで(チャンスが)あるだろうと思ってきた」
ひたすら出番を待ち続けた。球界を代表する大投手がウエスタン・リーグで102イニングも投げた。リーグ最多を走った。44歳の珍記録だ。
「ウエスタンで一番投げてるピッチャーですから。その辺も、しっかり投げてて良かったな、と思う。それがこういう結果につながったのかな思います」
2軍でもケガや体調不良で戦列を離れる選手が多い。だが、山本昌はずっと1軍の“先発予備軍”としてスタンバイし続けてきた。そしてチャンスをつかんだ。強い体と心。その証しの「102イニング」だった。
炎天下のナゴヤ球場でも、ひたすら走り込む姿があった。「今思えば、サボらずに頑張ってきて良かったな、と」。1軍でも2軍でも関係なく、手抜きしない。積み上げた汗の結晶がこの日のマウンドにあった。
まずは慎重に入った。1回で30球も投げた。「球数使っちゃいましたけど、零点で切り抜けられて良かった。小山もいいリードをしてくれた」。5回までは2安打無失点。6回にソロで1点失ったものの、トータル6イニング3安打1失点の快投だ。
辛口の落合監督も「まあまあじゃないの?」と及第点を与えた投球。勝負のあやを知る左腕が帰ってきた。「ちょっと違う世界に来た感じがしたけど、これでちょっと落ち着いてやれるかな」。本来の定位置だ。
数々の年長記録を塗り替えてきた男に、また一つ勲章が加わる。プロ初勝利を挙げた88年から22年連続となる白星。セ・リーグでは広島・大野の21年を抜く新記録だ。
「ピンと来ませんけど、すごいんだろうな…と。ひとごとみたいになるけど、自分でもビックリというか、つくづく体が丈夫なんだな、と思います。ここまで周りの方に助けてもらってきたので、少しでも恩返しがしていければと思います」
恩返しは始まったばかり。逆転Vは遠いが、クライマックスシリーズ、日本シリーズという大勝負も待っている。「そこで頑張るためにやってきたので、今度こそ最後まで頑張りたい」。ポストシーズン初勝利という目標もある。
自分に厳しく、決して折れない。真に強い体と心を持った男が帰ってきた。 (生駒泰大)
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