【四国新聞のコラム】　足利事件で栃木県警本部長が菅家利和さんに謝り、検察が謝罪会見を開いた…冤罪は許されないが、対応は格段に進歩した。残るは裁判所だ。足利事件の再審開始が決定し、年内にも無罪判決が出る見通しとなった。その時、裁判所は裁判所自らの非を認め、裁判も含めた冤罪の構造を解き明かすのか。それとも従来通り、粛々と無罪を言い渡すだけに終わるのか。裁判員制度が始まり、これまで以上に裁判所へ注目が集まっている。これからどんな人たちと一緒に裁判にかかわっていくのか、裁判所は進歩しているのか、足利事件でそれを知ることになる。（２００９年６月２４日付「一日一言」）全文

　【東奥日報のコラム】　…強いられた自白と、精度の低かったDNA鑑定と。捜査の思い込みや、それを追認していった裁判などなど。向き合うべきことを見落とした側は、自由を奪った重い過去を背負わねばなるまい。なぜ誤判の道へと踏み込んだのか。脳裏から離れぬ疑問を解くために、菅家さんは再審に臨むという。切なる声に、裁判はどこまで応えることができるか。（６月２４日付「天地人」）全文

　【琉球新報のコラム】　あまり知られていないが、台湾は刑事事件の容疑者の取り調べに弁護士が立ち会う権利を確立している。…台湾で立会権が認められたのは８２年。短銃を使った銀行強盗事件が起き、拷問を受け自供した容疑者が現場検証の際に川に身を投げて自殺した。直後に真犯人が分かり、国民の猛烈な批判が法改正を促した▼台湾の警察庁幹部はこう言い切った。「人権を保障するため、できるだけ弁護人を立ち会わせている。捜査に支障はなく、逆に適正さを証明できる。日本は刑事手続きでは後進国じゃないか」…（２００９年６月７日付「金口木舌」）全文

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【動画】足利事件で釈放された菅家さんをインタビュー

　【徳島新聞のコラム】　…第二、第三の菅家さんを出さないためには、容疑者の取り調べを録画・録音する「可視化」の実現が欠かせない。「冤罪（えんざい）」で人生を台無しにされた菅家さんに対する、それがせめてもの償いである。（６月６日付「鳴潮」）全文　

　【北海道新聞のコラム】　…ここで問いたいのは裁判所の姿勢である。事件が起きた１９９０年以降、ＤＮＡ鑑定の技術は飛躍的に進歩した。だから弁護団は繰り返し再鑑定を求めた。だが裁判所は退け続ける▼弁護団は９７年、独自の鑑定で、菅家さんの毛髪のＤＮＡ型が犯人と一致しないとの結果を得た。最高裁は、旧式の鑑定を「信頼される方法で行われた」などとして、上告を棄却した。技術が進んだ２０００年のことだ。…（２００９年６月６日付「卓上四季」）全文

　【神奈川新聞のコラム】　…仕組まれる冤罪（えんざい）の罠（わな）。もはや警鐘は何度も鳴らされた。裁判所はそれを見抜かねばならない。旧式のＤＮＡ鑑定に目をくらまされたとはいえ、今度の裁判所の目の曇りはどうしたことか。…その機能不全同然のさまをいまさらながら憂える。（６月６日付「照明灯」）全文

　【新潟日報のコラム】　冤罪の典型「弘前大教授夫人殺し事件」（１９４９年）の有罪の決め手は、無実の受刑者のシャツに残った被害者のものとみられる血痕だった。ところがこれは警察が人為的に付けたものとされる▼これと同じように、もし誰かが、別人の毛髪や体液をわざと犯行現場に残したら…。「数兆分の一」の誤差しかないＤＮＡ鑑定を法廷で示されたら、それを疑う市民裁判員などどれだけいるだろう…（２００９年６月６日付「日報抄」）全文
　
　◆久間元死刑囚の飯塚事件とは＝１９９２年２月２０日、福岡県飯塚市内の路上で登校途中だった小学１年の女児２人をワゴン車に乗せて誘拐。首を絞めて殺害した上、遺体を山中に捨てたとされる事件　決め手の一つはやはりＤＮＡ鑑定だった　久間元死刑囚は再審請求をするつもりだと言っていたが、去年１０月２８日死刑が執行された

　【西日本新聞2008.10.29の記事】⇒　これですべてが終わった。久間三千年死刑囚（７０）の刑が執行された。…この事件は犯行場所も殺害状況も動機も、正確には何も真相が分かっていない。久間死刑囚は逮捕された１９９４年９月から最後の日まで、一貫して無実を主張した。…事件にかかわった複数の捜査関係者は「彼は家族を守るために否認を貫いた」と言う。犯行を認めれば自分の家族が崩壊する、冤罪のまま死ねば救われる‐と。もしそれが真実なら、久間死刑囚の心境をどう理解すればいいのか。久間死刑囚が奪った女児２人の命と家族の苦しみの重さと、必死で守り通した自らの家族への思いを。久間死刑囚には、語らなければならないことがたくさんあった。語らずに、この世を去った。もう少し時がたてば、あるいはその日が来たかもしれないという思いもぬぐえない。判決確定からわずか２年での執行には疑問が残る。発生から事件を追い続けた。いくつもの「なぜ」を残し、１６年８カ月後の３人目の死をもって幕を閉じた。心は、晴れない。（２００８年１０月２９日）

▼飯塚事件、再審請求へ　ＤＮＡ新証拠提出目指す（2009/06/05 23:00共同通信）
▼死刑確定を報じる記事（2006.9.8）　小学１年女児２人誘拐殺害（2006.8.23）　死刑廃止議連（2008.10.28）　久間死刑囚「『否』貫く」（2008.10.28）

　【四国新聞のコラム】　グラフや専門用語を並べて「血液がサラサラになる」と言われて信じたら、悪徳商法だったりする。効果が定かでないのに、「マイナスイオン」の宣伝に乗せられる。そこに根本的な違いはない。それらしい演出に「科学」という権威付けがなされると、人はたちまち思考停止し、「真理」だと信じ込む癖がある。一度信じれば、わずかな疑念には目をつぶる。科学の落とし穴だ。さらに厄介なことに、科学は進歩する。ある時代に正しいとされたことが、いつまでも正しいとは限らない。天動説と地動説がそうだったし、１９９０年代初めのＤＮＡ鑑定も最先端の科学だったが、今から見れば幼稚なレベルだった。…（２００９年６月５日付「一日一言」）全文

　【北日本新聞のコラム】　…いずれ再審が始まり菅家さんに無罪が言い渡されることになろうが、審理に当たっては要望がある。単に菅家さんの名誉を回復するだけでなく警察や検察の捜査がどのように進められたのか、冤罪の図式をぜひ明らかにしてほしい。裁判員制度が始まり、来月にも裁判員裁判が開かれる。科学的捜査と説明を受けてもそれが誤っていたり、自白があるとされてもそれが虚偽だったら、裁判員は何を信じていいのか分からなくなる。冤罪の解明は裁判員制度にも資するところが大きい。（２００９年６月５日付「天地人」）全文

　【信濃毎日新聞のコラム】　…初期のＤＮＡ鑑定は、精度が十分でないとされた。菅家さんの無罪の訴えを受け、検察側がなぜもっと早く再鑑定をしなかったのか、と悔やまれる。一連の捜査のどこかに思い込みや決めつけはなかったか、顧みていたら再鑑定は実現していたように思う（６月５日付「斜面」）全文

　【中日新聞のコラム】　…獄に追い込んだのも科学、救い出したのも科学。翻弄された一人の人生を思う▼当時は「最新の科学」としてありがたがった鑑定も、実は“生煮え”だったということだろう。であれば、と不安も首をもたげる。今、身の回りにあふれている「最新の科学」は…（６月５日付「中日春秋」）全文

　【宮崎日日新聞のコラム】　…菅家さんは会見で「当時の警察官や検察官に謝ってほしい。許せない」と絞り出すような声で語った。これに対し当時の栃木県警幹部らのコメントが印象的だ。「事件のことは思い出したくない」。人一人の人生に対する結果責任を「思い出したくない」で済ませる気か。事件から１９年。ＤＮＡ鑑定の精度は飛躍的に向上し、裁判のあり方も大きく変わった。だが、菅家さんの「無実の罪の歳月」に比べて警察の意識はあまりにも軽い。（６月５日付「くろしお」）全文

　【上毛新聞のコラム】　…10年ほど前、こんな窃盗事件があった。盗まれた金庫が畑の中で発見され、そこから前歴者の指紋が検出された。警察はその男性を逮捕。ところが別の事件の容疑者がこの金庫を盗んだことを自供した▼調べてみると、最初に逮捕された男性は中古金庫の販売店で働いていたことがあり、指紋はその時に付着したものだった。絶対であるはずの指紋も、念入りに調べないと冤罪を生む…（６月５日付「三山春秋」）全文

　【西日本新聞のコラム】　…私事ながら、司法を担当して最初に書いた大きな記事は、熊本県で起きた「免田事件」の再審開始決定（福岡高裁）だった。「開かずの門」が開いた。死刑囚としては初めて再審無罪になった。開始決定から３０年になる▼死刑の恐怖から生還した免田栄さんは、一市民としての普通の生活を取り戻した。欠けていたものがひとつある。年金生活だ。「国民年金に加入する機会を、不当な拘置で奪われた」として国に資格回復を申し立てる、と昨日の本紙にあった…（６月５日付「春秋」）全文

　【下野新聞2009年3月21日】　確定判決のＤＮＡ鑑定に初めて疑問を投げ掛けた足利事件。だが全国の再審請求で、ＤＮＡ鑑定によって無罪が証明されたケースは一例もない。一九九七年九月、札幌高裁。「ショックで失神しそうだった」。「晴山（はるやま）事件」の再審請求に奔走していた笹森学（ささもりまなぶ）弁護士。確信が崩れた瞬間の思いが脳裏を離れない。二十年以上無罪を訴えていた死刑囚のＤＮＡ鑑定。結果は「クロ」だった。事件は七二年から北海道空知地方で発生した連続女性暴行殺人事件。被害女性に残された体液と死刑囚のＤＮＡが一致し、再審請求は棄却された。現在足利事件の弁護団に加わる笹森弁護士は…（下野新聞の足利事件特集ページより）続きを読む

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　【熊本日日新聞のコラム】　「科学とは、ある結論を肯定するために、そうでないものを一つ一つつぶしていくこと」ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英京都大名誉教授（６９）が先日、京都大で新入生らにこんな講演をした▼不純物のない蒸留水のように、疑問や反証の余地がなくなったものを科学と呼ぶのだろう。…足利事件。…科学的な証拠のはずだったのに▼専門用語やデータを示して「科学的」と言われれば、つい信じてしまう。そんな科学信仰…（２００９年５月１０日付「新生面」）全文

　【西日本新聞のコラム】　…ＤＮＡ鑑定の進化は捜査の風景を一変させた。凶悪事件の公訴時効を見直す動きもそのひとつ。鑑定で犯人のＤＮＡ型を特定できた場合は時効を停止する案もある。たどりつける可能性がある犯人に、時効制度で「永久逃亡」を許すのは時代に合わない。（２００９年４月２３日付｢春秋」）全文

　【高知新聞のコラム】　一九五三年四月、英科学誌ネイチャーにわずか二㌻ほどの、だが画期的な論文が発表された。生命の遺伝情報を伝えるＤＮＡの構造を明らかにした、ワトソンとクリックの研究である。ＤＮＡは二本の鎖状の分子が絡み合った「二重らせん」構造になっている。それを発見したときクリックはワトソンに、「われわれは生命の秘密を突き止めた」と語ったという。その後のＤＮＡ研究の進歩を見る限り、確かに大発見だった。二人はＤＮＡが将来、犯罪捜査でも大活躍すると予想したろうか。九〇年の足利市女児殺害事件で無期懲役が確定した受刑者のＤＮＡ型が、被害者の着衣から検出されたものとは一致しなかった。…いまやほとんど間違いないというＤＮＡ鑑定だが、一致した、しないと言われれば、そう信じるしかあるまい。裁判員制度がもうすぐ始まる。一般市民が「生命の秘密」に向き合うこともある。（２００９年４月２３日付「小社会」）全文