高等学校で使っている教育出版『新現代社会』の34ページに,「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、現状のまま放置すれば、2010年における地球の平均気温は1990年時点よりも2℃高くなり、海面は50㎝以上の上昇が予測されている。」とある.
このことについてネットで取り上げたら,それなりの成果があった.出版社が記述の誤りに気がついて修正をしてくれるらしい.修正は「2100年に海面が50cm以上上昇する」というようにするという.
そこで私が「IPCCは2100年に中心値で35cmだから,この際,50cmの方も直しておいた方が良いのではないか」と電話でお話ししたら,「環境省の環境白書に書いてある」ということだった.
それなら「IPCCの報告によると」ではなく「環境白書によると」と記述する必要があるとアドバイスをしておいた.
また,IPCCの報告によっているとしている環境白書が,IPCCの記述と違うのは今に始まったことではない.言いにくいことだが,環境省というのはウソの常習犯だからしかたがない.
また,教科書はお役所の報告を載せるというのは事実の軽視である。教科書は正しくなければならないが,お役所は政策の実行のために平気で間違いを書く。
でも,「お役所の報告を使わないと睨まれる」ということで教科書メーカーがお役所の文書を使い,間違いを生徒に教えるのは感心しない.日本人の誠から外れる。
お役所でも何でも,「正しい」ことを生徒には教えたい.
ところで,この教科書にはもうひとつ「温暖化で沈むツバル」の記述があり,そこにツバルの高校生のアンケートが載っている(同34ページ)。
『「国土の水没」について、ツバルの高校生へのアンケート調査の結果』(2003年4月2日実施 対象:ツバルの高校生約60名)で,質問は
「ツバルに地球温暖化の影響が見られるか」
「地球温暖化防止会議を知っているか」
「アメリカ合衆国が地球温暖化防止会議から離脱したことをどう思うか」
「もしも島が沈んだらどうしますか」
「次のうちどの国が一番CO2を排出していると思うか」
最後の質問に「日本」と答えたのは34.8%で一位、あとはアメリカ・ロシア・中国・イギリスと続いている.
質問の内容は「温暖化でツバルが沈みつつある」という前提だが,それは科学的事実ではない.日本のマスメディアを中心に,また税金をつかった調査団が何回もツバルにいってそこに住む人たちに日本に蔓延している事実誤認をそのまま伝えてきたからだ.
先入観を与えてアンケートを採った結果を教科書に出すということは,執筆者自身が「温暖化でツバルが沈んでいる」という錯覚を持っていることを意味している.
これも修正を依頼しておいたが,どうなるだろうか?
要は執筆者を含めて現在の日本全体を覆っている「温暖化恐怖症とそれをあおることによって得られる利権」と,「未来ある高校生に事実を伝える」ということのどちらが大切かを冷静に判断することだ.
教科書会社の良心に期待したい.
(平成21年6月6日 執筆)
武田邦彦
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