北朝鮮で暮らす被爆者を描いたドキュメンタリー映画「ヒロシマ・ピョンヤン~棄(す)てられた被爆者」が今夏、広島などで上映された。監督の伊藤孝司さん(57)=三重県=は映画制作を通じ、「被爆者に正面から向き合う原点に戻った」という。【矢追健介】
学生時代からフォトジャーナリズムにあこがれ、20代半ばには写真家の土門拳に強い影響を受けた。会社勤めをしながら、漠然と広島や長崎を訪問。83年ごろ、在日韓国人や在日朝鮮人の被爆者に出会い、「日本人」ではない被爆者がいるのを初めて知った。
こうした人たちの取材を始め、87年に「原爆棄民 韓国・朝鮮人被爆者の証言」を出版。フリーのフォトジャーナリストとして歩みだした。日本が侵略した韓国や台湾、東南アジアを取材した。「ただ、北朝鮮だけ空白でした。これはいけないと思った」
91年に北朝鮮へ取材申請し、98年に許可された。今春まで取材は23回を数える。「北朝鮮の被爆者は他の被爆者と違う。何の補償もなく、このまますべての人が亡くなるかもしれない。日本として、放置してはいけない問題だ」。北朝鮮では約1900人の被爆者が確認されているが、現在生き残っているのは約380人という。「日朝関係は悪くなる一方だが、早く日本でこの問題を知ってほしい」
一方、北朝鮮の被爆者は、同国が核開発をするまでは「いかなる国も核兵器を開発するべきでない」と話していたが、開発以後は「やむを得ない」と話しているという。「国の置かれた状況はかなり苦しい。そこを考えると複雑な思いです」
毎日新聞 2009年9月12日 地方版