環境ニュース

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日本が変わる:温室効果ガス削減、高い目標(その2止) 25%削減、高いハードル

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 <1面からつづく>

 ◇のしかかる負担増

 温室効果ガスを1990年比で25%削減する目標を掲げ、「環境重視の政権」を国際的にアピールした鳩山由紀夫民主党代表だが、実現に向けては高いハードルが待ち構える。

 ■賃金・雇用に影響

 ガスの排出を抑えるには、太陽光など現状ではコスト高の新エネルギーの普及や、省エネ機器の導入が不可欠だ。削減幅が大きくなるほど光熱費は跳ね上がり、企業の省エネ投資の増大で賃金や雇用の減少などの「副作用」を招きかねない。

 政府の試算では、現行の政府目標「05年比15%減(90年比8%減)」ですら、光熱費などで1世帯当たり平均で年7万7000円の負担増が見込まれる。環境投資の必要額は官民で累計52兆円。

 現在の政府目標は「真水」と言われる国内削減分だけの数値だが、民主党は目標達成に向けて、途上国への資金援助による海外からの排出権取得分などを加える見通しだ。このため、両者の単純比較はできないが、政府は「25%減」を国内だけで実現するには「1世帯36万円、官民で累計190兆円の負担」になると試算している。

 ■隅々まで規制

 25%減にすると生活はどう変わるのか。

 政府は太陽光発電が現状の55倍(政府目標では20倍)、新車販売の約9割(同5割)を電気自動車など次世代カーに切り替えることが必要と説明する。省エネ基準を満たさない既存住宅の強制改修や、企業への排出枠割り当てなど厳しい規制が社会の隅々に及ぶ。

 6月1日に開かれた日本経団連と民主党幹部の意見交換会。「25%減」に理解を求める岡田克也幹事長に、経団連の清水正孝副会長(東京電力社長)は「達成には失業者の大幅増加、多大な国民負担を伴う。納得性ある説明が政治の責任だ」と反論した。

 経団連は負担増を懸念し、一貫して民主案を批判してきた。実際、排出量の多い電力業界は08年度、海外から排出権約6400万トン分を約1000億円で購入したが、現行の京都議定書(日本は08~12年平均で90年比6%減)達成の道のりは険しい。

 仮に「25%減」のうち10%分を海外からの排出権購入でまかなった場合、20年時点の財政負担は年数千億円に上るとみられている。エネルギー業界の首脳は「排出権市場を創設した欧州を利するだけ」と語り、いらだちは募るばかりだ。

 ◇国内合意、どう形成

 民主党政権としては、国内の合意をどう取り付けるかが課題になる。

 鳩山代表は「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、日本の約束の前提だ」として、米国や中国を引き込むための戦略に理解を求める。環境技術を持つ企業グループの幹部は「環境も競争条件としてのみ込む世界の潮流を、重厚長大産業は知らない」と指摘するなど、経済界にも理解する意見はある。

 民主党の福山哲郎政調会長代理は、重い負担を予測する政府試算について「省エネ投資をすれば将来、エネルギーコストが落ちる。技術革新、新たな商品もでき、そうした経済効果は試算に全く入っていない」と批判する。

 ■国際交渉に狙い

 民主党が高い目標を掲げた背景には、次期枠組みを決める年末の国際交渉を優位に進める狙いがある。06年の世界の二酸化炭素(CO2)排出量で日本は約4%に過ぎず、中国は米国と同様、約20%。交渉の成否は新興国をいかに巻き込むかにかかっているためだ。

 「各国の国情を十分考慮し、(先進国と途上国を)区別すべきだ」。中国外務省の姜瑜副報道局長は8日の定例記者会見で民主党の中期目標を受けて語った。

 中国は先進国に大幅削減を求め、6月に麻生太郎首相が「90年比8%減」を発表した際には「国際社会の期待から隔たりがある」と積み増しを要請。しかし、民主党の大幅削減案で中国に厳しい対応を求める国際世論が高まりかねず、警戒心をあらわにした格好だ。

 97年採択の京都議定書では、大幅削減を求める欧州連合(EU)と産業界への影響を懸念する米国が対立。妥協の産物として08~12年までの削減目標を90年比でEU8%、米国7%、日本6%と「政治決着」させた。だが、米国は離脱し、その後中国など新興国の排出量が激増した。

 民主党政権はポスト京都議定書交渉で、EUとも連携し、離脱した米国や新興国に積極的な取り組みを求めると見られる。しかし、次期枠組みは結果次第で経済成長やエネルギー政策への影響が大きく、各国とも自国産業を考慮して激しい交渉が繰り広げられる。

 ■民主にも矛盾

 一方で民主党の矛盾を指摘する声も多い。衆院選のマニフェスト(政権公約)で高速道路の無料化やガソリン税などの暫定税率廃止を盛り込んだためだ。自動車利用者の負担は年4兆円近く軽減され、環境省内でも「車の利用促進でものすごくCO2排出が増える」(幹部)と批判がある。

 公約の策定過程では岡田幹事長が「暫定税率廃止を先行させず、環境税と並行した議論が必要」と指摘したが、鳩山代表が押し切った経緯がある。政策の整合性をどうつけるのかが民主党の課題だ。【大場あい、三沢耕平、赤間清広、谷川貴史】

毎日新聞 2009年9月12日 東京朝刊

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