日教組の「悪法支配」を許すな:八木秀次(高崎経済大学教授)、三橋貴明(評論家・作家)(3)
全体主義社会を誕生させる究極の法案
八木 次に、成立しそうな「危ない」法律はといえば、いわゆる人権擁護法ではないでしょうか。2005年には、当時の与党であった公明党や自民党の推進派の動きによって法律ができる寸前のところまで行きましたが、自民党のなかの保守派が一生懸命止めて事なきをえました。これに対し民主党は同年、「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案(人権侵害救済法案)」を提出しましたが、自民党の人権擁護法案より、さらに危険なものでした。これは終わった話ではなく、「民主党政策集INDEX2009」でも、「速やかに実現する」としています。
三橋 人権擁護法案にしても人権侵害救済法案にしても、問題は「人の心」という、本来は他人に量ることができないものを強制的に法律で裁こうとする点です。
たとえば私は韓国経済が危機的状況だと分析する書籍を書いていますが、この法律の成立後には、私の本を読んだ在日韓国人が「私たちは非常に侮辱されたと感じた」と主張して人権委員会に訴えれば、私は人権委員会に出頭して取り調べを受けたり、自宅などに立ち入り検査されることになる。「正当な理由なく調査に非協力」とされると、過料など一定の制裁が加えられます。そして人権委員会が「人権侵害」と決めさえすれば、「指導」を受けたり、調停・仲裁、勧告・公表、さらには訴訟などという道が待っている。たとえ正当な批判であろうとも、人権委員会が「差別」「人権侵害」と認めれば制裁が加えられるようになるのです。
そんなバカなことが、と思いますが、人権侵害救済法ができたあとにはそういう社会がやって来る。これは前代未聞の悪法だといわざるをえません。
八木 この法案の必要性を主張する人たちは「人権侵害があるからだ」という。しかし実際には、深刻な人権侵害は年に数件あるかないかでしょう。にもかかわらず、なぜここまで強力な法律をつくろうとするのか。やはり別に目的があるとしか考えられないわけです。つまり、この法律の推進派たちが、非常に強い権限を握って社会全体を統制することを意図しているのではないか、ということです。むしろ、もしもこの法律ができてしまったら、これから次々に人権侵害なるものがつくりあげられかねない。些細なことがみんな人権侵害になるわけです。「傷ついた、傷ついた」と言い募れば人権侵害になりかねないわけですから。
三橋 この法律の根底には、いわゆる従軍慰安婦問題や南京大虐殺問題と同じく、「自分たちは酷い目に遭わされている被害者だ」「加害者は罪を悔いていうことを聞け」という発想があるわけです。このような発想は、もちろん諸外国にもあるのでしょうが、とくに日本人の場合は、「おまえたちは加害者だ」といわれると、たとえ悪くなくてもとりあえず謝ってしまう国民性がある。それで事実関係が曖昧になり、その結果、いつの間にか「かわいそうな人たち」に対して逆らえない空気が生まれてしまうのです。
八木 差別に対する「糾弾」を、国レベルでシステム的にやろうというのがこの人権侵害救済法案なるもので、それは普通の人にはもう耐えられないですよ。「一罰百戒」という言葉がありますが、1件でも身近にあれば、もういっさいそういう問題については口をつぐむようになるでしょう。
三橋 しかもこの法案では、友人とこそこそ話をしただけで、「あれは俺の悪口をいっているのだ」と訴えられて、それが通ってしまう危険性がある。証拠は要らないのです。これは明らかにおかしな話で、これでは誰もが過剰反応せざるをえません。非常に閉鎖的な「密告社会」が生まれることは間違いありません。
八木 私事ながら、数年前にまさに「自分の悪口をいっている、名誉棄損だ」と訴えられたのですが、私の場合は裁判所が正当な結論を出してくれて全面勝訴しました。しかし、この法律が成立すれば、人権侵害の場合はそういう裁判所の判断ではなくなる。人権侵害を特別に扱うセクションができて、そこが事実上の捜査権・司法権をもち、そこでレッテルを張られて制裁を受ける。それに対して上告もできないわけです。保守言論を目の敵にした「保守狩り」も十分考えられます。『Voice』誌だって危ない(笑)。
三橋 たとえば、北朝鮮に家族を拉致された家族会の方々の活動に対して、朝鮮総聯に関係するような人たちが「あの家族たちの言い掛かりによって、われわれは非常に苦痛を受けている」と訴え出たらどうなるか。いくら一般から見て、どう考えても家族会が正しく、言い掛かりでも何でもないと思えても、訴え出た人が「言い掛かりで傷ついた」と感じ、新たに設立される人権救済機関がそれを認めれば、「人権侵害」と断ぜられて終わりです。
八木 左翼団体が組織の生き残りを懸けてこういう法律を推進していることが、さらに問題を厄介にしています。民主党の「人権侵害救済法案」では、内閣府の外局として中央人権委員会を設立し、都道府県知事の所轄の下に地方人権委員会を置くことになっています。そして中央人権委員会も地方人権委員会も、委員長および委員の任命について「NGOの関係者、人権侵害を受けた経験のある者等を入れるように努めるものとすること」と書かれている。ここまで書かれると意図は明確ですが、この法案ではさらに「内閣総理大臣又は関係行政機関の長は、中央人権委員会から意見を提出されたときは、その意見を十分に尊重するものとする」と、意見尊重義務まで謳っている。まさに「人権委員になりたい人たち」のための法律だと考えるほうがいいでしょう。そして社会全体は萎縮し、非常に窮屈な全体主義社会が誕生する。
三橋 これは一言でいうと、既存の支配層の人をひっくり返そうとしている「革命」なんです。
八木 三橋さんのお書きになった『新世紀のビッグブラザーへ』でも、男系の皇位継承が男女平等に反しているとされて「皇太女殿下」が誕生することとなり、外国人とのご成婚が画策される社会が描かれている。それに対して反対すれば人権擁護法で「外国人差別」とされてしまうわけですね。
三橋 『ドラえもん』というマンガに、「ソノウソホント」という秘密道具が出てきます。これは「それを口に付けて嘘をいうと、嘘が現実になる」というものですが、これに勝てるものはない最強の道具といえるでしょう。人権擁護法案あるいは人権侵害救済法案というのは、まさにそれなのです。あらゆることが人権侵害だといわれたら、もうそれで終わりですから。まさに究極の法案だと思います。
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2009年10月号のポイント
民主党政権誕生。「日本をこう甦らせて欲しい」と、一言述べたい人も多いだろう。そこで、緊急特集「民主党にこれだけは言いたい!」と題し、李登輝氏、竹中平蔵氏、花岡信昭氏など9人の論客に日本国民の気持ちを代弁して提言いただいた。日本再生へ思いを民主党に託す、力のこもった意見の数々を是非お読みください。
その他、ビル・エモット氏の中国論(力作50枚)、大前研一氏の日本経済展望など、注目論文満載です。
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