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温暖化対策 キャップ・アンド・トレードの矛盾明白
二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスについて、国ごとの排出削減目標に応じて国内企業にキャップ(排出枠)を課す「キャップ・アンド・トレード方式」の矛盾が明白になってきた。同方式は地球温暖化防止の有効策として2005年1月に欧州連合(EU)が導入。ところが欧州委員会は先ごろ、「政府が企業にキャップをかける」ことへの反発に配慮し、2013年から「入札制度」を導入する方針を打ち出した。ただ、この方式にも賛否が渦巻いており、矛盾解消につながるかは不透明だ。
今年は温暖化防止を目指した京都議定書の第1約束期間の初年にあたるが、キャップ方式を含め、その問題点が浮き彫りになっている。
キャップ方式では、企業に排出可能なCO2などの上限枠が割り当てられ、枠を超えて排出する場合は排出権の購入を迫られる。一方、余剰分は排出権として売ることができる。このため、どれだけのキャップが課せられるかは企業収益や国益に直結する。
第1約束期間中、加盟国全体で1990年比8%の削減義務を負うEUは、国ごとの目標にメリハリをつけて全体で8%削減につながるようキャップをかけたため、余裕が少ないドイツやポーランドが反発。厳しいキャップをはめられた企業は欧州委を提訴した。
半面、東欧諸国やロシアのキャップは緩く、「ホットエア」と呼ばれる余剰排出権が大量に存在。企業レベルでは排出実績の2倍以上のキャップが許容されたケースがあり、排出権を売るだけで“ぬれ手でアワ”状態で金銭を手にできる。
こうした矛盾に配慮し、EUがキャップ方式の改定案として打ち出したのが入札制度。この方式では、各国に課せられた削減目標の範囲内で、国内企業は入札によって排出権を購入する。
省エネ先進企業は購入量が少なくてすみ、排出量の多い企業は多額の資金が必要となる。購入資金を無駄だと判断した企業に、省エネを促す制度になりうるわけだが、ドイツなどは早くも「産業の海外流出を招く」と反発を強めている。
流出懸念が頭をもたげる原因は、京都議定書が途上国に排出削減の目標を課していないことにある。目標が課せられたのはEU各国や日本など計38カ国・地域だけで、これらの国の工場が途上国に移転すれば排出量に制限がかからない。
途上国関連の矛盾は、先進国の企業が途上国で排出削減事業を行い、生じた排出権を得るCDM(クリーン開発メカニズム)という仕組みでも顕著だ。企業はCDMに資金を投じ、その事業から生まれた排出権は購入しなければならない。
途上国にとって、先進国の技術を得られるうえに排出権まで売れるCDMは、省エネの進んでいない工場を「金のなる木」に換えた。途上国には排出量目標がないため国全体の排出量は増大。省エネがCDM任せになり、自助努力を鈍らせるマイナス効果もある。
EUは風力など再生可能エネルギーの大幅な利用拡大を加盟国に課す方針や、「2020年の排出量を1990年比で20%以上削減する」との目標も打ち出したが、そこには、ポスト京都議定書の枠組み作りで主導権を握ろうとの狙いが透けてみえる。