鉄人28号(2004年版)
題名:21世紀の鉄人伝説
本作『鉄人28号』は、通算4回目のTVアニメ化にあたる。しかし、2004年……21世紀初頭に放映されたこの作品は、過去のいずれとも違ったテイストをもつ異色のアニメ作品となった。それはなぜなのだろうか。
原作者は故・横山光輝(本作の放映中に事故死された)。漫画掲載は光文社の月刊誌「少年」(現在休刊)で、昭和31年7月号から連載されるや手塚治虫作「鉄腕アトム」と並ぶ人気作となった。日本独自の文化たる巨大ロボットもの系譜も、ここからスタートしている。
今回のアニメ化は、ある意味原作にいちばん忠実と言える。物語の「時制」を連載されていた「昭和30年代初頭」においているからだ。しかし、別の意味ではいちばん遠いとも言える。当時の時代性をなるべく排除した原作漫画に対し、本作では舞台となる町並みや事件のディテールをリアルな視線で拾い上げ、21世紀の現実から振り返ったことを最大の特徴としているからだ。いわば原作掲載時点が舞台の「時代劇」として描いているのだ。
その理由とは、「鉄人の正体」を考えればある程度は自明である。
もともと鉄人28号自体は、太平洋戦争時に秘密裏に開発された「兵器」と設定されていた。これは戦後11年の連載開始時点で、巨大な人型機械にリアリティをもたせるための措置だった。だが、直後に日本は高度成長期に入り、わずか7~8年にして最初のTVアニメ化時点(昭和38年/1963年)では、時代の風は科学による未来志向となり、戦争は懐古すべき遠いものとなりかけていた。
しかし、太平洋戦争とは日本人だけで300万人以上を死に追いやり、大きな爪痕を残した災禍だ。そして降伏・占領後にアメリカと結んだ関係は、今なお世界情勢における日本の立場を支配し続けている。その反面、NHKのドキュメンタリー『プロジェクトX』で描かれたように、終戦直後という時代だけが成し得たエネルギッシュな出来事も多い。
そうした混沌の時代だけがもつ独特の空気の中に、誰もが知っているあの鋼鉄の巨人が戦争の空気をまとって立ったら……という「IFの世界」が、21世紀の『鉄人28号』が目ざしたものなのだ。
こうした企画の外枠が決まった上で、監督は今川泰宏が担当することによって、本作のドラマはさらなる深化を遂げる。今川監督は90年代に『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日 -』というビデオアニメの傑作を発表している。これは横山光輝のさまざまな漫画の名キャラクターを配役し、総登場させた野球のオールスター戦のような作品であり、少年漫画の基本に立ち返った激しいドラマのエスカレーションが話題を呼んだ。
これと相似形の手法が本作『鉄人』にも採用されている。原作鉄人に登場する有名キャラクターとロボットを総ざらいし、昭和30年前後の戦後の混乱期に発生した謎めく事件をからめ、さらには昭和の空想特撮映画のテイストまで空気感に取りいれ、濃密なる情念が漂う独特の世界観を作りあげていった。
ゲストキャラクターの声のキャストは、TV時代の黎明期から活躍している超ベテランで占められ、重厚な画面にさらなる重みを加えて聞き応えあるものとされた。映像で特筆すべきは独特の色づかいと美術だ。アニメーション作品は子ども向けで派手な色彩というイメージが強いが、本作ではあえて彩度と明度を抑え気味のカラー設計がなされている。褐色や濃緑色をベースにした色味は、木造家屋や路面電車の目立つ美術背景とマッチし、レトロとは違った戦後昭和の世界観を体現している。DVDでは画角が16:9ワイドとTV放映より拡がっているので、昭和30年代初頭の世界もよりリアルに見えることだろう。
こうした物語世界の底に流れるのは、今川監督の得意とする「父と子のドラマ」である。男子として乗り越えるべき父親像は、正太郎にとってはあらかじめ喪われていた。しかもその父は鉄人に「正太郎」という同じ名前をつけた上に、戦争という大きな災厄の中核さえも封じこめていた。そんな後半の「バギューム=太陽爆弾」をめぐる連続活劇は、往年の作品がもっていた逆転また逆転のハラハラドキドキ感を復権させた上に、父の世代と戦争の精算のひとつのあり方を提示する。
あらゆる子どもが親から生まれ育ったものであるように、いかなる現在も過去なしでは成立しない。未来は勝手にやって来るものではなく、過去と現在を結んだ線の上に意志をもって作りあげていくものだ。21世紀初頭の今、『鉄人』が必要とされる理由も、そこにある。戦争という過去の経験をもとに21世紀を見上げた昭和30年代の人の想いが、未来の見えにくい今この時期にこそ必要だから、鉄人を呼んだということなのだ。新たな世代に伝説を語り継ぐために……。
この作品からそうした綿々とつながる「想いの連鎖」を感じ取りつつ、全26話を一気に楽しんでいただければ幸いである。
【初出:「鉄人28号」DVD-BOX(キングレコード) 脱稿:2005.01.31】
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