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2006年11月27日 (月)

冥王計画ゼオライマー

題名:究極のロボットアニメ

 『冥王計画(プロジェクト)ゼオライマー』はバブル崩壊の直前、1988年の作品である。テレビでは全盛を誇ったロボットアニメが途絶え、オリジナル・ビデオ・アニメも5年目を迎えて黎明期のクリエイター中心大作主義から、30分の連作へと主流が移っていた。一方、新しく若い才能が活躍の場を与えられ、野心に満ちた作品も現れ始めていた。そんな節目の時代の中で、本作は「究極の巨大ロボットアニメ」として登場した。
 この作品最大の魅力は、巨大ロボットの魅力が作品の中心に根ざしているところである。ロボットアニメにおいては、本来巨大ロボットは添え物ではなく、物語を動かしていく主役キャラクターであるべきだ。一見当たり前のようであるが、これが守られているロボットアニメが何本あるのだろうか。
 元祖『マジンガーZ』では、主役は神にも悪魔にもなれる力を持った巨大ロボット、マジンガーZだった。ストーリーは超合金Zの争奪戦が中心で、その基本ラインに乗せて巨大ロボット同士のバトルをどう展開してくれるかが各話の味つけだった。
 『ゼオライマー』はこのセオリーを遵守し、ロボットアニメとして見せるべきところに映像的工夫を加えてしっかりと見せた上で、現代人が抱える「アイデンティティ」の問題をサスペンスに満ちたドラマ、すなわち「自分自身が敵と味方に分かれて世界を賭けて戦うゲーム」として描いた。このテーマも登場人物と各個の操るロボットの関係性に絡め、八卦ロボ中特異な能力とストーリーの根幹に関わる秘密を持った「天のゼオライマー」の存在を主役にきちんと位置づける周到さである。ロボットアニメは無数にあるが、ここまで突き詰めた作品は少ない。
 では、本作のロボットアニメとしての具体的な見どころについて述べてみよう。
 まず八卦ロボは、実体を感じさせる描写が非常に魅力的である。第1話の登場シーンでは、雷鳴を背景に、腕を組んで中空に浮かび、鉄甲龍要塞の上にただ立っているだけで実に格好良い。シルエットは中国テイストを意識してか、それぞれ「二つ名」の象形文字のラインを感じさせる。ストライプによるアクセントと胸に輝く球形コアは、全ロボットが共通化に持つもので、「同一設計者によるロボット」ということが視覚的に強調され、ドラマとロボットを密接に結びつけていた。
 戦闘に入ると、八卦ロボは実在するもののように大きく、パワフルに感じられる。画面構成(レイアウト)は、人間の目の高さのカメラポジションを意識して、八卦ロボを下から見上げたアオリの構図がほとんどで、圧迫感を覚えるほどだ。照明(ライティング)もほとんどのショットで光源がロボットの足元に設定され、下から上へ照らすような効果となり、顔面は黒ベタで潰されることも多く、巨大感とともに畏怖を感じさせてくれた。
 菊池通隆が絵コンテと作画監督を兼任したACT2では、この効果が多用され、巨大ロボットのバトルシーンに新境地を拓いた。富士山周辺に住む一般市民の生活環境で、ロボット同士の戦闘が始まるパニック状況を、緻密な構図を積み重ね、攻撃と被害を細かく追ったことで、激しい臨場感が発生した。特に、そびえるゼオライマーの足元には霧、手前には植え込み、電柱と電線、見上げる避難民、そしてトラックのバックミラーにも恐怖の一般市民の顔が写り込むショットの重層構造は、歴史に残る名構図である。
 巨大ロボットのギミック(仕掛け)描写も、ロボットのメカニズムらしさを強調し、機械としての魅力を存分に引き出していた。手足のパーツを合体しながら出撃していくゼオライマー、ブライストとガロウィンが一体となって放つ必殺技「トゥインロード」、ローズセラヴィーの巨大ビーム砲「Jカイザー」……巨大メカニズムが豪快に変形し、合体して力を解放する快感と、ドラマの盛り上がりが一体化していく。これもロボットアニメならではの快感である。
 ロボットの流れ弾で多数の死傷者が出る冷徹な描写の中で、登場人物の繰り広げる愛憎劇が、ゼオライマーの必殺技「メイオウ攻撃」によって、すべてが消滅していく。本来カタルシスとなるべき敵へのとどめ、主役メカ最大の見せ場が、妙に切なく虚無を覚えるものとなっている。
 この逆説的な感覚が、この物語ならではの「味」である。それは、本作がロボットアニメとしてやるべきことを十全に行ったからこそ、生まれたものなのである。
 アニメは、ジャンルの細分化とニッチ化、些末主義に陥る指向がある。歴史の中で何度もそういうことが起きた。その中で、基本を踏まえ、見せるべきものは突き抜けるまでしっかりと描き、さらに主張したいことをその上で物語る。そうあって欲しいものだ。
 そんなことを頭の片隅に置き、「究極のロボットアニメ」を存分に楽しんで欲しい。
【「冥王計画 ゼオライマー コンプリート」DVD解説書 脱稿 2001/4/20】

※脚本:會川昇、監督:平野俊弘、キャラクターデザイン:菊池通隆のOVAです。「隠れた傑作」みたいに思っていたら、いつの間にかフィギュアも出る人気作になっていて、ちょっと嬉しいです。「スパロボ効果」だとは思うんですが……。

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