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2006年11月27日 (月)

鉄人28号(太陽の使者)

ブラックオックス(鉄人28号・新)

<リード>
心を持った黒き巨人
その優しさに言葉はいらない

■最強の敵は最強の友

 横山光輝の『鉄人28号』は都合3回アニメ化された人気作品だ。99年初夏、3作品各2体、計6体がHGガシャポン化された。選定した担当者は実に鋭い。3作品の「鉄人+オックス」を組み合わせて商品化したのだ。
 オックスとはブラックオックスのことだ。頭頂部の両側に巨大な二本の角を有し、全身を黒いカラーリングで包んだ鋼鉄の貴公子。鉄人28号のライバルにして最強タッグを組んだ友である。
 最強の敵が、一度は破れた後に味方になる「昨日の敵は今日の友」パターン。これは、少年ジャンプ系のコミックが80年代に大流行させた。そのロボット版とも言うべきものは、60年代の『鉄人28号』ですでに完成されていたわけだ。
 ブラックオックスの人気は鉄人本体より高い。たとえば『機動警察パトレイバー』に登場し、巨大な角を持った黒いレイバー、グリフォンはデザイン段階ではデザイナーの出渕裕に「オックス」と呼ばれていたそうだ。OVA版『ジャイアントロボ』では、庵野秀明作画によるブラックオックスが、霧に包まれて「ガシャン! ガシャン!」とビル街を歩いていた。これらクリエイターたちの少年時代に、強い印象を残した黒いロボットだったのだ。

■太陽の使者版ブラックオックス

 80年のリメイク版『鉄人28号』は、通称『太陽の使者版』と呼ばれている。1年間の放映の後半は、ブラックオックスがらみの話で盛り上がっていた。
「心を持ったロボット」という切ないテーマは、「いいも悪いもリモコン次第」の鉄人本体とのコントラストを得ていっそう明白になった。ことにオックスの死に様は鮮烈な印象を持ってぐっと迫ってきた。太陽の使者シリーズは、オックスなしには語れないと断言できる。
 初登場は第34話「最大の敵!ブラックオックス」。不乱拳博士はX団のヘンケル司令の力を借りて自分の理想とする「心を持つロボット」を建造していた。たとえ悪人の力を借りようと、心を持っていれば正しいことをすると信じ、不乱拳博士はは未完成なオックスを敷島博士に託して死んでいく……。
 第36話「宿命の対決!鉄人対オックス」では、ヘンケルの弟ガンガルが不乱拳博士に変装してオックスをだまし、鉄人と戦わせる。オックスの強さがここで浮き彫りになる。目からウネウネした凶悪なビームを放射! 戦車も航空機も壊滅的な打撃を受け、出動した鉄人も左腕をもぎとられてしまうのだ。
 この回はスタジオZ5・No.1による華麗なメカ作画が絶好調。山下将仁・越智一裕作画のパワーが炸裂し、オックスの強さをあますところなく描いていた。結局、本物の不乱拳博士が講演するビデオを見てオックスはだまされていたことに自らの判断で気づき、鉄人と再度共同戦線で逆転する。このように、無敵を誇る鋼鉄の身体に、幼くもけなげな魂が宿っているというアンビバレンツな有様が、なんと言ってもオックスの魅力なのだ。

■ブラックオックスの最後

 ロボット博物館に収蔵されたオックスは、鉄人とタッグを組んで何度か戦いに勝利を収める。一方、宇宙魔王とグーラ王子の地球攻撃が本格化、その中でついにオックスとの別れが描かれるときが来た。
 第49話「さらば!ブラックオックス」では、ロビーによって催眠装置がオックスに取り付けられ、電磁光線で要塞都市を攻撃中の鉄人を追いつめていく。鉄人捨て身の攻撃でオックスは正気に戻った。ここでオックスの持つ心が、逆に悲劇を招いてしまう。
 オックスは傷ついた鉄人を横たえると、要塞都市の地下の火山脈を攻撃する。ところがグーラ王子は一枚上手だった。オックスを葬り去るために要塞都市を自爆させてしまったのだ。
 激しい光に包まれるオックス……。
 この先の描写は、涙なしには語れない。爆発だけでもオックスがやられた!というショックがある。だが、もっと視聴者の度肝を抜くような冷酷な映像が展開するのだ。
 空中から回転して飛来する何ものかがある。それがバンッ!と地面につきささると、それはなんとオックスの顔面のパーツだった!
 ロボットが破壊され最後を迎えるシーン数々あれど、インパクトという点では、これほどのものはないだろう。オックスは心があった。だから自分の判断で人間のために捨て身の攻撃をした。結果、鋼鉄の身は破壊され、その顔面自体が墓標となった。
 だが、われわれは知っているのだ。最後のその描写がロボットらしく即物的であればあるだけ、オックスの心がどれだけ高貴に輝いていたか、を。衝撃の映像に対する驚きが、とりもなおさずオックスに対する最大の賞賛なのだ。一瞬の映像で深く刻みつけられた傷は、我らが生命のないものにも共感できる魂をもった証明でもあるのだから。
 私の執筆用パソコンの上には、ブラックオックスのHGガシャポンが並んでいる。体型は腰がくびれていてもっとスマート、顔は彫りが深く、憂いを持っているようでもある。つい感情移入してしまう自分……。
 まさに巨大ロボット史上最大の「2番手」ブラックオックスは、心の有様を見せつけてくれた勇者だったのだ。【初出:ムック「No.2キャラクター伝説―二番手英雄伝」(双葉社) 1999年10月】

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