7月31日に「扶桑社版自由社版つくる会歴史教科書を採択の対象から除外すべきことを求める裁判」が松山地裁に提訴され、それに合わせて韓国から原告の方が松山に来られました。翌8月1日、松山市総合コミュニティーセンターで「なぜ私はつくる会教科書に反対するのか!」と題してシンポジウムを行いました。シンポジウムでは韓国人元従軍慰安婦、靖国に祀られている韓国人遺族の証言ビデオ、韓国での原告募集の記録映像などが上映され、日本人の戦争体験者や韓国人原告がそれぞれ発言しました。 私はこのシンポジウムに参加することが出来ませんでした。夜からの雨で電車が不通になったためです。幸い、発言者の1人、キム・ミンチョル氏の原稿が手に入り、公表の許可が得られたので、以下に紹介します。韓国人にとっての「つくる会歴史教科書」の意味を明らかにしていると思います。 私はなぜ「新しい歴史をつくる会」の歴史歪曲教科書訴訟に原告として参加したのか キム・ミンチョル(「アジアの平和と歴史教育連帯」共同運営委員長) 板垣 当時は貧しいなかで公娼もいた。官憲が幼い女性の首に縄を結んで引っ張っていったという主張は信じることはできない。 キム・サンヒ 兵士たちと共に戦線を回った。慰安所から逃げようとすれば軍人らが銃を撃った。友人は自殺した。一部日本人が強制ではなかったという妄言を吐くので悲しみのあまり息の詰まる思いがする…。 板垣 そのような例があるとは全く信じることはできない。当時の状況からそう言える。政治家として信念がある。強制的に引っぱっていかれたという客観的証拠はあるのか。 市民団体職員 キムさんの証言を偽りだというのか。 板垣 偽りではないだろうが、すべて事実と見なすには疑問が残る。感情的に言ってはならない。証拠が必要だ。判断根拠が無いものは信じない。 キム・サンヒ あなたは、生と死が交錯する戦線に行ったことがないのだろう。私の身体には色々なところに傷痕がある。 板垣:その8年間、1銭も受け取らなかったのか。 キム・サンヒ 生死の境を越えてきた人間に対し、何が本当で何が本当ではないのか。かつて戦場で私の身体を汚して、50年が過ぎた今、私の魂を汚すのか。決して許すことはできない。 1987年、ドイツでジャーナリストのラルフ・ ゾルタノが「第2の罪 ― ドイツ人ゆえの負担」という本を出版し、出版するやいなやベストセラーになった。彼はヒットラー時代ドイツ人が犯した罪が「第1の罪」ならば、「第2の罪」は1945年以後、「第1の罪」を心理的に抑圧し否定してきたものであると規定した。 彼は圧倒的多数のドイツ人がこの「第2の罪」を犯してきたと述べ、「今日に至るまで、これが西ドイツ政治文化の本質的特徴の1つになってきたが、この負担は今からでも引き受けなくてはいけない」と指摘した。西ドイツは「過去克服」に対して日本とは比較できないほど多くの努力を傾けてきたという人々には、「第2の罪」理論はあまりにも痛烈な批判だった。 もちろん、西ドイツでも「過去克服」のための作業は順調に進められてきたのではなく、「強い逆流に抗いながら進められてきたこと」だった。アデナウアー体制の下では、過去清算に対する全般的な雰囲気はこのようなものであった。多くの人々が事実を見ながらも見ることができないふりをしたり、ヒットラーをはじめとする一部のみ殺人鬼なのだと考える傾向が支配的だった。 ところが、1960年代から徐々に世論の方向が変わり始めた。過去の犯罪を認め、それにより受けなければならない処分を最低限で済まそうとしたり、みな忘れようとけしかける動きに対抗し、問題の次元を高めようとする努力が進められてきた。重要なことはこのような変化が単に過去を反省しようということだけでなく、現在の「生活様式」までも変化させようという論調を持っていたという点だ。これがまさに戦後西ドイツが行った「過去克服」の特徴だ。 ゾルタノの問題提起は、まさにこのような流れのなかから出てきたことだった。彼が提起した「第2の罪」とは、まさしく「良心の呵責」のことである。 後世の人間は過去の犯罪に対して直接的な責任はない。しかし、過去に犯罪を犯した人々と同じ国民であり、同じ国家に属している以上、その子孫は「良心の呵責」までも失うことはない。そこで、「過去克服」を立派に遂行したと評価されるドイツ社会に、ゾルタノは良心の呵責という根本的な問いを投じたのだ。 2000年7月12日、「太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会」が不二越に対して起こした訴訟では、日本の裁判所は会社に対して5人の被害者と遺族会へ約3,000万円の合意金を出すように判決を下した。被害者の主張を部分的に受け入れたのだ。しかし、被告であった不二越の井村社長は判決を受け入れはしたが、「謝罪する必要もなく、罪の意識など毛頭ない。ただ無謀な戦いを継続するのは互いに不幸であるから国の政策(裁判)に従うだけ」と記者に話した。 彼の不満のなかには、彼らの侵略戦争に強制的に動員され労働した植民地民衆の痛みと犠牲に対する最低限の認識さえ位置する空間がない。彼らにとっては、「過去の問題」という1日でも早く忘れたい煩わしい軛であり、金を少しでも手にしようとする被害者らの言い訳としか考えていない。 日本政府や右翼もやはり同じことだ。 いや、一歩先に進んでいる。彼らはゾルタノが提起した「第2の罪」はおろか「第1の罪」さえ認めようとしない。むしろ、彼らは板垣の主張のように日本軍「慰安婦」という、被害者の存在を完全に否定・抹殺することによって記憶の歴史から消去しようとしており、甚だしきは人身攻撃という2度目の加害を加えている。 私はゾルタノの「第2の罪」論に着目し、日本帝国主義が植民支配と侵略戦争で植民地と被占領地の住民たちに被害をもたらした行為を「第1次加害」とし、そのような加害行為を隠蔽し否定し、さらには美化・正当化したうえで次世代に教育する行為を「第2次加害」と規定したい。 「第2次加害」の類型は、極右勢力が日本軍と政府の犯罪事実自体を否定するだけでなく、被害者に甚大な人格的冒涜まで加えたことから、このような雰囲気を助長し法的責任を最後まで回避する日本政府の無責任に至るまで様々な形態がある。 1990年代後半から今まで「第2次加害」を主導したり加担した勢力は以下である。 政界 「明るい日本」国会議員連盟(会長奥野誠亮、自民党「終戦50周年国会議員連盟」を改組した団体)、正しい歴史を伝える国会議員連盟(会長小沢辰男)、終戦50周年国民委員会(会長加瀬俊一前国連大使)等 言論 産経新聞、文芸春秋、正論、Voice、SAPIO等団体:日本青年協議会、日本教師会、昭和史研究所、自由主義史観研究会、新しい歴史教科書をつくる会、歴史教科書是正を求める会(会長小田村四郎)、全国教育問題協議会(前副理事長梶山茂)、日本世論の会(会長柴田正)、違法教科書訴訟原告団(代表中村粲)、偏向教科書を糾明する国民会議(代表四方稔)等 このなかで中学校歴史教科書を通じて「第2次加害」を主導している代表的な集団が新しい歴史教科書をつくる会(新歴会)だ。 新歴会が作った中学校歴史教科書では、露日戦争に関する記述をしながらも、「生存をかけた」露日戦争で勝利した日本が「自国の安全保障を確立」と「植民地であった民族に独立の希望を持たしてくれた」と書いている。 このような記述は、独立国だった韓国が主権を喪失し奴隷状態に転落することになる事実を完全に隠している。そして、太平洋戦争当時東南アジア各国を侵略し、軍政を実施し、現地の独立運動を支援したように描写することによって戦争自体を完全に歪曲している。 このように、日本自身の利益のために韓国をはじめとする東アジア各国を植民支配し占領した帝国主義戦争の歴史を美化する誤りを犯している。 また、それによって殺害された2千万人を超える東アジア民衆の苦痛と恨みは、教科書のどこにも見当たらない。 結局、自国の侵略戦争を正当化・美化し、隣国民衆らを奴隷状態に追い詰め死に追い込むという野蛮な行為を隠蔽した教科書を作り次世代に教えようとすることは、過去の植民地支配や侵略を受けた被害国と民衆を侮辱するだけでなく、精神的な苦痛を与えるものとしてもう1つの加害行為であると言えよう。これが、私が扶桑社版と自由社版の中学校歴史教科書を提訴する第1の理由だ。 第2の理由は日本社会のためだ。日本は1945年の敗戦以後国際社会に復帰し、国際社会の一員になるために、日本帝国による植民地支配と侵略戦争によって被害をこうむった近隣諸国に対して、また同じ誤りを犯さないことを宣言した。その制度的装置として軍隊放棄(戦争放棄)、平和主義に基づいた日本社会の改革を条件に、日本は国際社会の一員になることを認められた。日本国憲法9条(戦争放棄・平和主義)がこれを雄弁に語っている。また教科書問題に近隣諸国条項を置いたのも同じ理由によるものだ。 ところで、扶桑社版と自由社版の歴史教科書は、日本帝国の植民地支配や侵略戦争を肯定・歪曲・偽造しており、近隣諸国条項に正面から違反している。これは、戦後日本社会が作ってきた民主主義と正義を後退させる一方、東アジアを蔑視する日本版オリエンタリズムによって東アジアの一員になることを自ら否定する結果を招くだろう。結局、2つの教科書は日本社会の健全な発展を害するだけでなく、相互平等で友好的な東アジア共同体の構築を否定し、緊張と葛藤をもたらすことによって平和な人生を享受する権利を著しく脅かしている。 それゆえ、日本のためにも韓国のためにも新しい歴史をつくる会の中学校歴史歪曲教科書が教育現場で使われることを中止しなければならない。万一、現教育委員会がこれを教科書として採択することになるならば、これは「第2次加害」に直接加担する共犯を犯すことであり、韓日両国の友好的な交流と発展を遮り平和な人生を脅かすことに加担する罪を犯すことになるだろう。司法もまた賢明で正しい判断ができなくなるなら「第2次加害」を黙認し幇助する誤りを犯すことになるだろう。 |
8月31日〜9月5日
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