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一線記者の頃、その日の仕事が終わると打ち合わせと称して繰り出した。飲むうちに日付が変わり、帰ればいいのにラーメンで締めるという日課である。その前にギョーザとビールがついた▼いま健診で怒られるたび、あれで10年は命が縮んだと悔やむが、ほろ酔いラーメンは体を張るに値する味だった。スープの背脂がぎっとり絡んだ太麺(めん)が、仕事漬けの身に一時の安息をくれた。目方と一緒に▼米ノースウエスタン大のチームが、夜食べると太ることをマウスの実験で確かめたそうだ。明るい時だけ食べられるグループと、暗い時だけのグループに分け、高脂肪の餌をやり続けた。6週間後の体重増加は「昼食組」の平均20%に対し、「夜食組」は48%に達した▼実験中の摂取カロリーと運動量に差はなく、寝るべき時間帯に食べたのがより肥えた理由とみられる。深夜には食べるなというメタボ予防の戒め通り、生活リズムを無視した暴食は体内時計が許さないらしい▼捨てる神あれば拾う神あり。京都大の上杉志成(もとなり)教授らのチームが、細胞内で脂肪ができるのを抑える化合物を見つけた。過食するマウスに4週間与えたところ、与えなかった一群に比べ体重は12%、血糖値は70%低くなった。脂肪肝も防げたという▼研究を重ねれば、いくら食べても太らない薬ができるかもしれない。朝から焼き肉、深夜にカツ丼。ついでに、飲むほどに肝臓が元気になるお酒が発明されたら人生は楽しかろう。ただし、使っても減らない財布があったらの話。見果てぬ夢のあれこれである。