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核軍縮―新しい日米協力の柱に

 「核なき世界」をうたったオバマ米大統領のプラハ演説から5カ月。世界はすでに動き出している。

 今月24日には、そのオバマ氏が議長となり、国連安全保障理事会の15カ国首脳がニューヨークに集まって核軍縮・不拡散について話し合う。

 拒否権を持つ常任理事5カ国は核保有国でもある。自らの核削減につながる話は、これまで安保理ではタブーに近かった。それを首脳同士で話すという。画期的なことである。非常任理事国である日本からは、鳩山新首相が出席することになる。

 先月6日、広島を訪れた鳩山氏は、オバマ氏の宣言について「日本はその先を行かなければならない」と語った。被爆国日本の新首相として、核軍縮にどんな貢献をしていくつもりなのか。国連の舞台で明確なメッセージを発してもらいたい。

 核軍縮をめぐる潮目の転換は、8月末に新潟市で開かれた国連軍縮会議でもはっきり見てとれた。

 日本政府の呼びかけで毎夏開かれるこの会議は、各国の軍縮専門家らを集めて議論を交わし、核廃絶への流れを後押ししようという狙いがある。ここ数年、軍縮交渉の停滞やインド、パキスタン、北朝鮮の核実験などで、議論は盛り上がりを欠いてきた。

 ところが21回目にあたる今年、バーク米大統領特別代表(核不拡散担当)は「核廃絶のゴールに向け、米国は各国と協力していく」と強調した。各国の専門家の多くからも、来年5月の核不拡散条約(NPT)の再検討会議に向けて、核軍縮への弾みをつけていこうという表明が相次いだ。

 足踏みしている包括的核実験禁止条約についても、発効を促すための国際会議がある。批准を目指すと明言したオバマ政権の登場で、会議の空気はがらりと変わると予想される。

 さらに10月には、日豪両政府の提唱で始まった国際賢人会議(川口・エバンス委員会)が、核なき世界に向けての具体的な提言をまとめる。来春には、オバマ氏が提唱した核物質管理のための首脳会議が米国で開かれる。

 こうした機運を成果につなげるために、日本も積極的な役割を果たすべきだ。新政権には次のことを望みたい。

 まずは、マニフェストにうたった北東アジアの非核化への道筋を描くことだ。さらにすべての核兵器国に核の先制不使用を求める。日本の安全、地域の安定のために、中国に核軍縮を促すことも欠かせない。

 むろん、北朝鮮の核開発やイランのウラン濃縮などNPT体制をゆるがしている難問には、根気強く解決をさぐっていく努力が必要だ。

 米国と緊密な協力関係を保ちつつ、核軍縮に関する日本ならではの構想力を示してもらいたい。

法科大学院―法曹が連帯し質向上を

 法科大学院を卒業した人を対象にする新司法試験の合格者が発表された。4回目のことし、年々下がってきた合格率はさらに27%にまで落ちた。

 合格者も初めて前年を下回り、2043人。来年あたりをめどに合格者を3千人にする計画なので、本来なら2500〜2900人が目安だった。

 法務省は、大学院修了生の水準が反映された結果という立場だ。

 しかし合格者の多い上位校では、今回3度目の受験機会だった06年度の修了生でみると、合計7割前後が合格を果たした。「修了者の7、8割が合格」の理想を達成しているといえる。

 問題は大学院間の格差が広がり、下位校が全体の足を引っ張っていることだ。今回も、合格者5人以下の大学院が74校のうち24校もあった。

 04年から開校した法科大学院は乱立気味で、1学年の総定員は約5800人だ。大学院側はこれを大幅に削減する方針だが、もっと早く手を着けるべきだった。すでに6割の大学院で入試の競争率が2倍に満たない状態になっている。実績を上げられない大学院の再編は避けられまい。

 法曹界には「法科大学院を出た司法修習生の質が落ちている」との嘆きがある。日本弁護士連合会は昨年、「合格者増のペースダウン」を求めた。

 だが、市民に司法を利用しやすくするため法曹人口を増やすことは、裁判員制度や法テラスと並ぶ司法改革の3本柱だ。その中心が法科大学院である。合格者数を絞ることより、全体の質を高めることを考えねばならない。

 弁護士会と裁判所、検察庁の法曹三者は、法科大学院教育の充実について、連帯して責任を持っていることを改めて認識してもらいたい。

 旧司法試験のような一発勝負の勝者ではなく、法科大学院から司法修習へというプロセスによって、人間性豊かで思考力を持った法律家を育てる。それがこの制度の理念だ。一部で法科大学院が予備校化しているとも言われる。そうであれば本末転倒だ。

 法科大学院と司法研修所、法曹三者が学生の育成過程をきめ細かく分担し、法律家として独り立ちさせるまで責任を持たねばならない。

 大学院の充実のためには、法曹の現場を経験した人材を教員としてもっと送り込む必要がある。

 最高裁長官を昨年、70歳で定年退官した島田仁郎氏は今年、東北学院大の法科大学院で教壇に立った。合格者の少ない下位校だ。半年前まで最高裁のトップにいた法律家が、自ら東京の自宅から仙台まで通勤し、学生たちに直接教えたのだ。

 経験豊かな法律家が、現実に法がどう運用されているかを伝える意味は大きい。大勢力である弁護士界から教育の場に転じる人がもっと出てほしい。

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