宮田文郎(アート・サプライ)
第12回
自然の草花で絵の具は作れるのか
昔の絵の具は
どうやってできていた?
バニーコルアートが販売している絵の具ブランド「リキテックス」。世界最初の水性アクリル絵の具で、1955年にアメリカで開発された。写真はレギュラータイプの「伝統色 12色セット」。全108色のなかから、各色相の代表的な色が選ばれている。
同じ赤や青でもいろんな種類があり、たくさんの色が販売されている絵の具。画材メーカー・バニーコルアート セールス&マーケティング部の車 洋二さんによると、その色のもとになるのは顔料で、油絵の具ならリンシードオイル、日本画の岩絵の具ならニカワ、水彩絵の具ならアラビアガムといった、色を紙に定着させるバインダーと呼ばれるものを顔料に合わせて絵の具にしているのだとか。
では、絵の具の色のもとになる顔料には、もともとどのようなものが材料として使われていたんでしょうか。
「昔は自然のもの、土や鉱石が主に使われていました。たとえば土は茶色系統の色に使われ、焼いたりすることで色みを変え、同じ茶色でもいくつかの階調の絵の具を作っていました。鮮やかな色の鉱石は、細かく砕くことで顔料にしていました」
なるほど。これら天然の原料は、今は使われていないんでしょうか。
「今は化学的に合成された顔料が多く使われています。たとえば顔料に使われる土の主成分である酸化鉄を化学的に合成することで、土で作っていた色と同じような色を作っています。土だと不純物があるため、色にばらつきが出てしまうんです。他の色も同じで、日本画で用いられているカキの殻を砕いた胡粉による白色のように、今でも自然のものが使われているものはありますが、材料の価格や量の問題もあり、主流は化学的に合成された顔料になっています」
へえ。いろんな色が化学的に作り出されてるんですね。ところで、化学的に合成する技術がなかった昔は作れなかった色などもあったのでしょうか。
「青は貴重な色でした。ウルトラマリンという色に使われていたラピスラズリという鉱石は、装飾品、宝石でもあったほど貴重なものだったんです。日本画では、群青(ぐんじょう)と呼ばれている色です。今もウルトラマリンはありますが、それは合成してラピスラズリに似た成分を作ったもので、成分的には同じでも色は多少違うと思います」
また、顔料が大きく変わったのが産業革命のころだそう。
「産業革命のころに、コバルトや水銀など重金属の化合物を使った無機顔料の絵の具が増えました。しかし、毒性があるため、今ではそれに代わって石油から作っている有機顔料が多くなっています。有機顔料はこれまでの顔料より鮮やかなのが特徴です」
様々な工夫もあって、顔料は天然のものから化学合成のもの、さらに、化学合成でも安全なものに変わってきたんですね。また、絵の具の大敵は光だそうで、耐光性があるかどうかが問題になってくるそうです。
「ドラクロワという19世紀フランスの有名な画家は、その時代に流行ったビチウムという茶褐色系の色を多く用いていました。当時の石油化学の最先端で作られたコールタールを精製したのがビチウムで、当時の最先端の色としてもてはやされていたんです。しかし、耐光性がありませんでした。そのため、年月を経ると溶けてしまうなどして、絵画のビチウムを使った部分が崩れてしまったんです」
もちろん、今では紫外線を当てるなどして、しっかりと耐光性のチェックが行われているそうです。時代とともに移り変わってきた絵の具の顔料。これからも進化が続きそうですね。
バニーコルアート
今回お話を伺ったバニーコルアートのHP。
リキテックスなどの絵の具の紹介やギャラリーの案内も。
自然の草花や葉っぱで絵の具を作っても、
かなり色の薄いものになってしまいました。
ただ、炭だけはしっかりした
黒色になりました。
また、市販されている絵の具は
歴史とともに顔料が移り変わるなかで、
様々な優れた“代用品”が登場しているようです。
さて、絵の具に負けじと様々な
代用品を探し続けたこの連載は今回でおしまいです。
いや、絵の具には負けたような気もしますが、
みなさん、とにかく、
今までどうもありがとうございました!
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第12回 自然の草花で絵の具は作れるのか
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宮田文郎(アート・サプライ)
ユルいものからあまりユルくないものまで、ある程度何でもこなす三十路の編集者兼ライター。「覇気なし」「甲斐性なし」「人望なし」とよく誤解されるが、実は貯金も免許もない。所属する編集プロダクション"アート・サプライ"まで徒歩で通うエコな一面も。
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