吉本興業が株式の公開買い付け(TOB)による非上場化に踏み切るのは、強い発言力を持つ創業家など大株主の影響力を薄め、経営の独立性を高めて番組制作や出版など事業の強化を図るためだ。ク社に出資する在京民放や通信各社も、吉本との関係強化を事業拡大の好機ととらえるが、具体的な効果を発揮できるかは不透明だ。
上方演芸界を主導してきた吉本は80年代以降、東京でのビジネスを増やすとともに、従来の興行中心から番組制作で収益基盤を強化する戦略に転換、加速してきた。08年末にヤフーと動画配信事業で提携するなど通信業界との連携も強めている。しかし創業家と経営陣との確執、所属芸人の不祥事や使途不明金疑惑など経営を揺るがしかねない問題も抱え、「企業価値を下げる」(元吉本幹部)事態に直面。株価は低迷し、買収を仕掛けられる懸念もあった。
一方、民放各社はインターネット普及などで「テレビの魅力の維持・向上が経営課題」(同)となる半面、不況の追い打ちで広告収入が落ち込み制作費は削減傾向だ。通信会社もパソコンや携帯電話の普及が一巡し、配信情報の「質」が求められる時代となった。
転換期を迎えるメディア環境の中で、吉本は「簡素化された株主構成の下、経営判断の迅速化を図り、短期的な業績変動に左右されることなく、企業価値の向上を図る」と非上場化を決断した。出資企業も吉本とのパイプを強められる。
当面の課題は、金融機関への借金返済だ。事実上、無借金経営の吉本だが、現在の吉本の売上高488億円(09年3月期連結)から見ると、300億円の融資返済は重荷になる。【清水直樹】
毎日新聞 2009年9月12日 東京朝刊