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今週の本棚・本と人:『在日一世の記憶』 編者・小熊英二さん

 ◇52人、等身大の証言

 在日韓国・朝鮮人1世52人の等身大の証言集。姜尚中・東大教授とともに編者を務めた。

 在日1世の証言として「良くも悪くも政治色が薄い」と話す。従来の本には「強制連行の事実を明らかにする」といった明確な目的があったが、これにはない。証言者も民団、朝鮮総連など特定の民族団体に偏らない。「強制連行」で来日した人、終戦時に帝大生だった人、戦後の混乱期に来た人、また元BC級戦犯もいる。戦後の職業も民族団体の専従、焼き肉店経営、学者、詩人、牧師、海女などさまざま。「政治的な本では捨象される生活のリアリティーが出ているのも特徴」という。

 民族団体が一般の人々に、運動体と同時に互助組織として受け入れられていた歴史が分かる。朝鮮総連が民族学校を作る際や北朝鮮への帰国運動に、自民党系の政治家が協力した話なども興味深い。「研究者は知っていても、書くのはタブーだった話も証言として出せた。総連・民団の対立という在日団体の『冷戦』期が終わったことの産物でもある。それに、皆さん現役から退いて時間がたち、『そろそろ話していいだろう』と思ったのでは」

 約780ページと、普通の新書4冊分はある分量。にもかかわらず、発売約3カ月で3刷と好調な売れ行きだ。このことが出版界にとって持つ意味を力説する。「薄くて内容の浅い新書が売れるとは限らない。どの編集者も、それを分かっているのにやめられない。その中で硬い内容の証言集を、高価なハードカバーではなく新書で、しかもこれだけ分厚くして出しても黒字が出ることを立証した」。読者からの反響とともに、出版社側の果敢な姿勢に応えられたことがうれしいようだ。<文と写真・鈴木英生>(集英社新書・1680円)

毎日新聞 2009年2月1日 東京朝刊

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