世界のまち_題字
岡田 朋也((株)国吉設計)
 陶磁器で彩り豊かに飾られた壁やバルコニー、数々の花や緑の豊かな植栽など、住民の工夫や遊び心が、まちの印象を大きく左右する。そんなスペインの小さな街・フリヒリアナを岡田朋也さんに紹介してもらった。
 スペイン・フリヒリアナ―白亜を彩る陶磁器や植栽
街の魅力つくる遊び心
 
 高台から見下ろしたフリヒリアナのまちなみ。白い壁と橙色の屋根が山の斜面に沿って並ぶ。ほとんどの建物が2階建て程度なので、まるで山の稜線と連続する風景の一部のように見える
 
 さまざまな模様の石畳の道は、車がやっと通れる程度の広さのものや、階段状や急斜面のものがほとんど。建物の高さが低く、道が狭いまちなみは、人の目線からは絶妙なバランスともいえる
 スペイン・アンダルシア州マラガ県内、地中海に面した保養地ネルハから6キロほど離れた丘陵地にある、人口3000人程度の小さな街がフリヒリアナ。2006年の春に1カ月間旅したイタリア・スペインの街の中で最も小さく、壮大な建築物が無かったにもかかわらず、私にとって最も印象の深かった街でした。
 フリヒリアナは、イスラム時代の雰囲気を色濃く残していて、アンダルシア地方の中でも最も美しい白い街の一つといわれ、いくつもの賞を受賞しています。
 街の所々で見られる、戦場となった歴史を伝えるタイル
 一方、16世紀、スペイン帝国軍との間に引き起こされたムーア人の反乱によって戦場となった過去があり、街の白壁にはその過酷な歴史を伝えるタイルが所々に飾られています。
 実際に、ネルハ発のバスから眺める街は、丘陵地に群をなす家々のほとんどが白壁で、緑の山を背景とした風景画のようです。到着してみると、丘陵地に連なる街は坂道や階段が多く、道幅は狭く入り組んでいることから、車よりも歩いている人々を見かけ、のんびりとした印象でした。
 まちなみを主に構成するのは、さまざまな模様の石畳に立ち上がりつながる真白な壁、軒先に見える橙色の瓦、そして青空。しかし、これだけでは数あるイスラムの白い街の中で、特に深い印象を与えることはなかったはずです。
 通りから中庭がのぞける壁の穴は、奥行きとさまざまな魅力をまちなみにもたらす
 では印象に深く残ったのは、なぜだったのでしょうか。白い壁をうがつ開口部から見える緑豊かな中庭。木の素材感や、塗装で豊かな色彩が与えられた木製の扉。イスラム文化圏の名残の一つである陶磁器で彩り豊かに飾られた壁やバルコニー。そして数々の花や緑の豊かな植栽とともに、歩きまわる私に、控えめながらも豊かな奥行きと表情、歴史や文化、風土を示してくれました。
 住まい手によるハンドクラフトのような工夫や遊びが、狭い道に白い壁という統一され、圧迫感さえ与えかねないまちなみに、歩くことを飽きさせないほどの魅力を提供しているように思われました。
 そして、気軽に「オーラ(こんにちは)」と声を掛けてくる人懐っこい住民が、こうした魅力に更なる親しみを与えていることを感じた、フリヒリアナの旅でした。
 
 街の入り口にある土産物屋。店先の壁に飾られた陶磁器の様々な模様がとても魅力的。フリヒリアナの玄関の役割を十分に果たしている
 白壁に飾られた鉢植えの植栽。青色や素材色の木製扉。住み手のほんの少しの工夫で、まちなみに大きな影響を与えている好例
 

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